研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【これまでとこれから】
私がここBRHに来てから4度目の春を迎えました。例年通りだと4月中旬ごろからミカンの新葉が大きくなり始め、アゲハチョウが産卵のためにミカンに訪れますが、今年は少し遅いようです。この時期になると、実験に使用するアゲハを採集に行ったり、飼育室で新たな幼虫を育て始めたりと慌ただしくなってきます。 今回は新たに始める実験について書きたいと思います。その前にこれまでの仕事について。私が3年間行ってきた仕事の1つとして、アゲハの電気生理実験があります。アゲハチョウ科の昆虫は寄主植物であるミカン科植物の葉に含まれる産卵刺激物質(味成分)をたよりに寄主選択(産卵する植物を選ぶこと)をしています。私は主に電気生理実験によってナミアゲハの産卵刺激物質受容メカニズムを調べましたが、結果から考え得るメカニズムは、一言にしてしまうと、ナミアゲハが持つ味を受容するための神経細胞のうち3つの神経細胞が複数の産卵刺激物質を受容していて、その3つの細胞が同時に発火(興奮)することがナミアゲハの産卵行動を誘発させるために必須であろうとゆうことです。このように、複数の味成分が複数の神経細胞によって受容され、それら複数の神経情報によって行動が制御されることを研究した例はそれほどありません。これらの結果は、すでにナミアゲハの産卵刺激物質が同定されていたこと、さらに味成分を手がかりにして産卵という単一の行動を行うアゲハだからこそ得られたと思います。 そこで、新たに始める実験ですが、ナミアゲハから得られた産卵刺激物質受容メカニズムが他のアゲハチョウ科昆虫でも同じなのか否かを調べたいと考えています。ナミアゲハと同様に産卵刺激物質が同定されているシロオビアゲハとクロアゲハを研究材料にする予定です。実験方法はナミアゲハと同じですのでガリガリとデータを取ればいいのですが、シロオビアゲハとクロアゲハはナミアゲハほど簡単に採集できません。シロオビアゲハは南西諸島以南(沖縄など)に分布していますので採集に行かなければなりませんし、クロアゲハはここ高槻でも採集できますが、近年山間の宅地開発が進んでいるためか採集することが難しくなってきました。もし、この日記を読まれた方にこの場を借りてお願いですが、この2種について良き採集場所をご存知でしたら、教えてください。 寄主植物の葉に含まれる産卵刺激物質をたよりに産卵するアゲハチョウ科昆虫が、共通の受容メカニズムをもつのか?または全く異なるメカニズムなのか?どちらに転ぶかはまだ解りませんが、彼らの種分化要因の一端を掴めるような結果が得られればよいなと思います。 |
[チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ 龍田勝輔] |