研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【ウイルス/細菌と細胞の攻防?】
先週末、9月に延期になった研究会に行ってきました。最近のクモのデータを紹介しましたが、何人かの方に面白いと言っていただきました。やはり本当に励みになります。お金や地位や名誉のためではなく、本当に好きな研究をするために研究をしている人とゆっくりと話すことができ、なんだか心が落ち着きました。今年も頑張っていけそうです。 さてインフルエンザの季節ですね。私も研究会から帰ると家族がインフルエンザに倒れ、あたふたとしました。でも病院で処方されたタミフルが効いたようで1、2日でほぼ回復し、ほっとしました。ところで、ウイルスでも細菌でも薬剤耐性のものが現れた、などというニュースをときどき耳にします。また、「耐性菌との攻防」のようなタイトルの記事を見かけることもあります。しかし、おそらくウイルスや細菌は人間と攻防しているつもりはないのだろうと思います。もともと生き物には常にある頻度で変異が生じており、ある時たまたま生じた変異が、薬が効かないものへの変化となっているだけなのだと思われます。もちろん薬が効かなければ薬に邪魔されずに、細胞に侵入して増えることができるのですが。では、侵入される細胞の方は、ただ黙って侵入されるのを見ているだけなのでしょうか? 細胞表面に存在する分子が、ウイルスや、細菌の毒素の標的や侵入するための目印となっている場合もあり、私たちのグループで研究しているカドヘリンも、ある毒素の標的となっているようです。以前、グループ内のセミナーで西口さんが紹介した論文では、その毒素を農薬(殺虫剤)として使用するうちに薬剤耐性の虫が現れ、調べるとカドヘリンに変異が生じていたことが報告されていました。(といっても、その研究の目指すところは、カドヘリンが変異しても毒素を効かせる方法であるようなのですが。)細胞の方も、やはり攻防しているつもりはなくとも、生じた変異で毒素やウイルスから逃れているのでしょう。これまでの小田さんのカドヘリンの研究で、体の内側にある神経系では進化的に古いタイプの構造のカドヘリンが残っており、外側の上皮のカドヘリンの構造は大きく変化していることが分かってきています。実際に何をきっかけに上皮のカドヘリンの構造が変化し、それが安定に保たれているかは分かりませんが、外側からすぐにアクセスできる方が変化しているというのは興味深い結果です。そして、それが動物の体の構造を大きく変えるきっかけとなっていたのなら、もう妄想の世界ですが、非常に面白いと思っています |
[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 秋山-小田康子] |