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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【アメリカ昆虫学会は刺激的でした】

尾崎克久 2011年11月、アメリカ昆虫学会(Entomological Society of America)に参加しました。春頃に突然、昆虫の味覚と嗅覚に関するシンポジウムを企画したウォルター・リール先生とジョン・カールソン先生からご招待のメールを頂いたのがきっかけでした。昆虫の化学感覚に関する研究を行っている人なら誰もが知っている大御所からのお誘いですから、大喜びで参加の返信をしました。
 会場になったのは、ネバダ州リノにある「RENO-SPARKS CONVENTION CENTER」という巨大な会議場でした。実は私、この学会にお誘い頂くまで「リノ」という都市を知りませんでした。
 日本から直行便はなかったので、サンフランシスコ国際空港で乗り継ぐという日程だったのですが、ここでひとつトラブルがありました。乗り継ぎには約1時間50分ほどの時間があったのですが、外国人に対する入国審査の待ち時間がとても長くて、一時間以上かかりました。やっと入国審査を通過して、乗り継ぎのための保安検査場に行ったら、またそこでも一時間以上待たされました。結局予定の乗り継ぎ便には間に合わず、後発便のキャンセル待ちをすることになりました。キャンセル待ち用の待合室にいると、同様に乗り継ぎに失敗した旅行者が次々と来るので、常に賑やかでした。私は運が良いことに、予定の便から二つ遅れの便に乗ることができましたが、それでも本来の予定から約8時間遅れで会場に到着となりました。アメリカに出かける際、乗り継ぎが必要になる場所の場合は、乗り継ぎの時間には大きく余裕を持たせた方が無難ですよ。
 会場到着は午後7時を過ぎていました。ポスター発表の会場となっているホールでは、オープニングレセプションが行われていました。立食パーティ形式で、学会参加者は自由に食事ができるようになっていて驚きました。会場がとても賑やかで、参加者の多さは圧巻でした。レセプション会場を見た印象では、日本分子生物学会年会に引けをとらないのではないかと思うほどでした。正確な参加人数は確認できませんでしたが、学会関係者のお話では、3,000人近い参加人数だそうです。
 翌朝、シンポジウムが行われている会場に行って、また驚かされました。10会場で同時に様々なテーマのシンポジウムが行われていましたが、どの会場にもベーグルなど軽食と飲み物が用意されていて、軽く朝食を摂りながら発表を聞くことができるようになっていました。
 演者の皆さんが発表の持ち時間をきっちり守っていて、質疑応答の時間も時間どおりで切り上げられて、完全に予定時間どおりに進行しているのが印象的でした。日本の学会などでも、質疑応答の時間が長引いたりして予定時間より遅れ気味で進行するのが普通だと思っていたので、不思議な新鮮みがありましたが、実はそれには理由がありました。
 午前の部が終了したら、またまた驚いたことに、スポンサーが用意した昼食会があるんです。シンポジウムの演者と聞いていた参加者が昼食会の会場に移動して、食事をとりながらゆっくりと話をすることができるんです。質問をしたいと思った演者がいるテーブルに行って、直接質問をすることができます。発表の内容だけではなく、実験の裏話や雑談なども聞くことができて、素晴らしい仕組みだと思いました。
 僕が招待して頂いたシンポジウムは、会期4日目の「昆虫の味覚と嗅覚」をテーマとしたもので、この分野で活躍する研究者が招待されていたので、論文で何度となく名前をみていた方々と直接お目にかかることができました。このシンポジウムの演者も会場に集まった人たちも、大部分は僕のことや研究内容を知らないという完全アウェイ状態での発表でしたが、多くの方に興味を持って頂くことができました。僕の発表の後に小休憩の時間があったのですが、沢山の方々に握手をして頂きました。
 シンポジウム後の昼食会で、他の演者の方々とゆっくりとお話をすることができました。実は以前読んでいた論文の内容で気になっていたことなど、本人に直接聞く機会があるのではないかと期待して質問を準備していたのですが、この昼食会で全部聞くことができて大満足でした。同じ研究分野の最前線で活躍していらっしゃる皆さんと交流を深めることができ、これまでで最も有意義且つ充実した学会参加になりました。
 学会参加というのは、研究成果を発表して自分の仕事のことを多くの研究者に知って頂くことも大切な用務ではありますが、近い分野で研究している方々と交流を図れるというのも大きな事だと思います。そういった意味で、アメリカ昆虫学会はとても素晴らしい仕組みではないかと思います。そのままの形式を取り入れることは難しいかもしれませんが、発表以外の部分で研究者間の交流を深める工夫は大切なのではないかと、学ぶことの多い学会でした。

[チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ 尾崎克久]

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