研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【久しぶりの野外採集】
先月、久しぶりに学生と野外採集に出かけてきました。目的はヤスデの採集です。ヤスデと言っても大きな分類群なので、たくさんの種がいます。今回は主にトットリホラケヤスデ (Speophilosoma tottoriense ) とオカシロケヤスデ (Japanoparvus okai ) を狙った採集です。2種とも鳥取県に分布していることが知られているので、今回の採集地は鳥取県にある浜坂神社と樗谿神社の付近の山を選びました。 なぜこの2種のヤスデを採集することになったのかというと、我々は昆虫類を始めとする節足動物の系統進化を研究しており、そのうちの1つの分類群である多足類(ムカデ、ヤスデなど)の系統関係(類縁関係)を明らかにしようとしています。もう少し具体的に言うと、多足類には十数の目(分類単位)が含まれており、これらの目間の系統関係を解明しています。この研究を進めるには各目から代表的に数種を分析する必要があります。ヤスデ類にはツルギヤスデという目がありますが、この目からなかなかサンプルの入手ができません。今回採集しようとしている2種はこの目に属する、恐らくもっとも情報が豊富なものなので、この2種を狙って採集することにしました。 しかし、この2種はいずれも4〜5ミリ程度の小さなもので、簡単には見つかりません。もちろん我々もこれまで採集した経験もないし、実物を見たこともありません。すべて資料頼りです。鳥取駅に着いてから、レンタカーを借り荷物をホテルにおいて早速樗谿神社付近の山に入りました。多足類の採集は一度経験したことがあるので、落葉と土の状態をみて何となく良さそうな場所で、取りあえずひたすら探しまくるという方法を取りました。しかし、これまで採集記録があると言っても、森の落葉の下から4〜5ミリのものを見つけるのはやはり難しいことです。半日をかけて数カ所を探しましたが、ムカデ、コムカデ、ヒメヤスデ、オビヤスデ、トビムシ、イシノミ・・・他の昆虫類も含めていろいろ見つかりましたが、トットリホラケヤスデとオカシロケヤスデは現れませんでした。 翌日は同じ山のもう少し標高の高い場所で探してみることにしましたが、山に入って間もなく雨が降り出しました。その雨が次第に強くなり、結局一日雨という最悪の事態になってしまいました。雨具を着て探し続けましたが、期待に応える結果が得られませんでした。その後、“戦略” を変更して、現地探しを取りやめ、落葉下の土を集めて研究室に持ち帰ることにしました。残りの時間(二日目の午後と三日目の午前)は全部この作業をして一杯の土を集めることができました。 幸いなことに、持ち帰った土から「ツルグレン装置」を使って、トットリホラケヤスデを1匹見つかりました(体長3mm強、写真)。現在学生が解析しており、結果を楽しみにしています。また、同じ土からもう一つ貴重なサンプル(ジムカデ1匹)が得られました。このサンプルについても早くDNA解析をして結果が知りたいところですが、学生はそれを可愛がっているようで、生かし続けています。 トットリホラケヤスデ |
[DNAから進化を探るラボ 蘇 智慧] |