研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【ソフトモデル】
脳血管学会で招待講演をされた宮田隆先生のお付きで、先日大阪YMCAまで行って参りました。講演内容は「雄駆動進化」に関するものでしたが、講演後に「大進化」に関する質問が出て、宮田先生はご自身のソフトモデルに関してお話しされていました。 そこで、あらためて感じたのですが、宮田先生のお考えになる「ソフト」とは、例えば代謝酵素をクリスタリンとしてレンズに用いたような、言わば「使い回し」を意味しているようです。この場合、例えばクリスタリンであれば酵素から構造タンパクへとその分子的な働きが異なる事となります。それに比べて橋本が妄想しているソフトとは、同じ遺伝子(産物)が同じ分子機能をもって働き、しかし、それが異なる文脈で使われる事により、その分子が構成する「かたち」の持つ意味が全体として全く異なったものとなることで、まったく同じ遺伝子を用いても異なるゲノムとなり得ることです。もちろんクリスタリンのような使われ方もなされている事は事実ですが、それはある意味で「新しい遺伝子の獲得」のような意味合いを持つ訳で、「ソフト」という言葉とは何か異なるように感じられてしまいます。 カンブリア爆発の遥か以前、縦襟鞭毛虫の祖先からすでに持ち合わせていた遺伝子のセットを用いて様々な動物門を作り上げて来た事の説明として、「ハード(新規遺伝子)の獲得ではなく、ソフト(遺伝子同士の関係性)に意味がある」とした宮田先生のソフトモデルには、具体的な分子機能の変化ではなく分子が働く文脈の変化の意味合いが強いと常々思っていた訳ですから、その考えの違いに気付き少しだけびっくりしました。なお、蛇足を承知で申し添えますが、宮田先生の説を否定するつもりは全くありません。考え方が異なるのはむしろよい事だろうと思います。 |
[カエルとイモリのかたち作りを探るラボ 橋本主税] |