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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【産卵実験に成功】

尾崎克久 実験室見学ツアーを始めとして、色んなイベントで産卵実験を行ってきました。実に沢山の方にご覧頂いていますが、プラスチック製の人工葉にミカンの葉から抽出した味の成分を塗布して、アゲハチョウを騙して卵を産ませるというものです。これは、アゲハチョウのメス成虫が前脚にある化学感覚子で植物の“味見”をして、幼虫が食べれる植物を確認して産卵するという習性を巧みに利用した実験です。たぶん誰も気付いていらっしゃらないと思いますが、必要なタイミングで狙い通りに産卵行動をさせるというのは簡単な事ではなく、チョウの管理やコンディション作りに関する以外に高度な技術なんです。
写真1 写真1
写真1 写真2
 まず、交尾済みのアゲハチョウに餌を与えてお腹いっぱいになってもらいます。そうすると、しばらくの間は翅を閉じて体を休めて、消化されるのを待ちます(写真1)。お腹がこなれてきたら、翅を開いてジッとしています(写真2)。
写真3
写真3
写真4
写真4
この状態になったら、少し強めの照明をつけます。人工照明だと翅をパタパタと動かし始めるまで10分〜20分程度かかります。研究用の実験として行う場合、常に安定した結果が得られるように条件を一定にする必要がありますので、飼育室内の実験用容器の中で人工照明を使います。しばらく翅を動かして、体が温まると飛び始めます。チョウを個体毎に入れておいた小型の容器から出して、大きめの実験容器の中を自由に飛び回らせると、やがて卵を産みたい気分になるんです。この状態になったら、人工葉など緑色のものを見せると自分の意思で近づいて、前脚でたたいて“味見”をして産卵します(写真3, 4)。こうする事で、季節に関係なくいつでも産卵行動に関する実験を行う事ができて、しかも安定した結果が得られます。文章で書くと簡単そうですが、実際にはなかなか人工葉のところに飛んできてくれなくて焦れったい事が多いので、卵を産んでくれた瞬間は内心「よしよし、君は賢いな。」なんて思ってニヤリとしてしまいます。
 さて、チョウの特性を理解してコンディションを管理するという、実は以外に高度な技術である産卵実験ですが、もちろんイベントで皆さんに喜んで頂くために磨いたものではありません。当研究室で取り組んでいる研究課題を推進するためのものなんです。この冬、当研究室で発見したナミアゲハの味覚受容体遺伝子の発現を、2本鎖RNAを注射する事で阻害したら(写真5)、産卵活性が低下するという事を確認できました。
写真5
写真5
鱗翅目昆虫ではRNAiがなかなかうまくいかないという事が知られているのですが、この遺伝子の発現に関する特性とアゲハチョウの産卵行動に関する特性を詳細に理解し、適切に組み合わせる事で見事実験に成功しました。しかも冬に。
 遺伝子についても行動についても、長い年月をかけて技術や知識を蓄積してきて積み上げた努力がついに実った瞬間で、一人大はしゃぎしてしまいました。無理やり証拠の動画を見せられた館員の皆様、申し訳ありませんでした。

[チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ 尾崎克久]

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