研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【論文投稿の難しさ】
研究というのは実験だけでなく、実験の結果をまとめて論文という形で公表するのも研究の一部です。しかし、論文の公表は、原稿作成、雑誌への投稿、レフェリーやエディターとのやり取り・・・、一連の過程を経る必要があり、簡単なことではありません。 最近、分子系統からみた日本産イチジク属植物とイチジクコバチの「1種対1種」共生関係の厳密性に関する論文をある国際専門誌に投稿しました。半年以上の時間を費やしてレフェリーおよびエディターと議論を重ねましたが、残念ながら不採用という結果になってしまいました。一連のやり取りの中で、今思えば少し反省しなければならない点もあり、ここで書いてみたいと思います。 一般的に、投稿論文を受け取った雑誌のエディターは2人のレフェリー(論文内容に近い専門家)を選び、論文を査読してもらいます。レフェリーのコメントはエディターを通して著者に送られ、著者はそれらのコメントに基づいて論文を修正したり、或いは指摘に対する反論を書いたりします。やり取りは全部エディターを介して行うので、著者はレフェリーを直接知ることはありません。エディターはその中で意見を述べることももちろんありますし、最終の採用可否の結論を下します。 今回のわれわれの論文に対して、1人のレフェリーは論文の価値が高く、研究材料と方法の部分を少し簡略すればそのまま掲載できるとかなり高く評価してくれましたが、もう1人のレフェリーは、論文の価値そのものを認めながらも、様々な指摘をしてきました。そのうちの一つは、われわれの論文中の系統樹が分類群の真の系統関係 (real phylogenetic relationship) を反映していないという指摘です。その理由は系統解析に用いた種数が少ないためだと言うのです。 系統解析の考え方には二つあります。一つは、サンプル数が多ければ多いほど信頼性の高い系統樹ができるという考え、もう一つは、適切に選択したサンプルを使用する方がより信頼の高い系統樹を作成できるという考え方です。どちらが正しいかという議論は多分永遠に終わることがなく、ここでは深入りしませんが、私は、系統解析に適切なサンプルを選ぶことが必要であると考えています。 われわれの今回の論文は系統関係そのものよりも、様々な地点から採集されたイチジク属植物とイチジクコバチのサンプルが系統樹上で、種ごとにまとまるかどうかに焦点を当てており、日本に分布しているイチジク属植物とイチジクコバチ各種の「1種対1種」共生関係の厳密性を調べたものです。系統解析に用いた種数が足りないというレフェリーの指摘に対して、私は、論文の研究目的に沿って様々な反論を行いました。反論の要点は、「今回のわれわれの系統解析には、日本産の全種が入っていれば、研究目的を達成しているよ!」ということなのです。しかし、反論の口調が強すぎたのか、エディターから予想外のコメントが届きました。そのコメントは非常にレフェリー寄りで、かなり極論というか、少し感情的なものでした。その後も議論とやり取りを重ねましたが、最終的には冒頭で述べたように残念な結果になってしまいました。 今考えてみると、私が、最初のレスポンスをもう少しうまく書いていれば、結果は違っていたかもしれません。正しい議論をしていても、あまり強い口調で反論すると、相手は感情的になってしまう可能性があり、そうなると良い結果は生まれません。反省しながら次の投稿雑誌を考えています。 |
[DNAから共進化を探るラボ 蘇 智慧] |