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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【レクチャーで話しそびれたこと】

小田広樹
 先日の実験室ツアーでは「新しい発見をするためのコツ」というタイトルで話をしました。具体的には、私がナメクジウオのカドヘリンが非常に奇妙な構造をしていること(図を参照)を発見した際の経緯を紹介したわけですが、その想像を超えた事実の発見以来、思いがけない発見をするにはそれなりの心構えや経験が必要だと私自信が考えるようになったことを伝えたかったのです。ここでは、そのとき話しそびれたことを少し付け加えたいと思います。
 発見というのは期待して期待するような発見をしても大した発見でないことが多いもので、人が驚くようなインパクトのある発見をするには、既存の知識に基づいて論理的に推測することよりも、自分自身の経験に基づく“直感”を信じて研究を断行することが大事だったりするものです。そのカドヘリンの構造の研究も私の直感からスタートしました。
 私はその研究をスタートするまではモデル生物のキイロショウジョウバエしか使ったことのない研究者でした。それなのにどうしてナメクジウオや他の動物を使おうと思い立ち、それを実行することができたかというと、いろいろ理由はあるのですが、もとを辿ると学生時代に私が過ごした環境に行きつくのかも知れないと思うことがよくあります。
 その環境とは? 研究室の中では私の周りのほとんどの人が脊椎動物の細胞や個体を使って研究をし、当然セミナーなどもいっしょにやっていました。その一方で、仲のよい同級生は他の研究室で脊椎動物に近い無脊椎動物の研究をしていました。そのような環境の中で、動物の違いを意識するようになったのだと思います。
 しかし、学生時代の環境だけが原因ではないとも思っています。学位取得後5年間、適度に孤立した環境で研究ができたことも原因だと考えています。一般にモデル動物を使った研究は、脊椎動物である我々人間と似ているはずの仕組みを明らかにして研究成果の有用性を主張する訳ですが、孤立した環境でとがめる人がいなかったので(感謝すべきボスの寛大さのおかげで)、私は“普通の”研究とは逆の方向に進んでしまった(進むことができた)のだと思います。
 逆の方向に進んでしまったことが私の将来にとって幸か不幸かわかりませんが、自分が積み重ねた経験を生かすには周りが見えなくなるぐらいの状態で突き進むことも大事だと感じています。





[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 小田広樹]

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