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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【遠隔指導の難しさ】

蘇 智慧
 ラボ日記の順番が回ってきましたが、書くねたがなく、ちょっと困っていました。この一週間、ある投稿論文の原稿を直していて、ラボ日記の原稿締め切り日の昨日にようやく終わったところです。その論文は実は中国中山大学の学生が書いたもので、なぜ私が直すことになったかというと、私がその学生の指導教官になっているためです。最近中国の大学は海外の研究者を客員教員として迎えるケースが多く、私もその流れの中で三年前に中山大学の客員教授になりました。客員教員といっても特にデューティーがなく、機会があればその大学に行って講義をしたり、セミナーを行ったり、大学院生の指導をしたりしますが、積極的に大学院生を短期留学の形で海外に呼び出し、自分の研究室で実験をさせる客員教員もいます。私は客員教員を受け入れたときに、学生の指導教官にもなってほしいと頼まれました。身近にいない学生を指導するのは不可能だろうと、最初はお断りしていたが、なかなか断りきれず、結局、遠隔指導となってしまいました。もちろんすべて私が指導するわけではなく、中山大学にも指導教官の先生がおり、その先生と共同指導という形になっています。中国の大学では大学院生に対してかなり放任主義であるような気がします。指導教官の先生は基本的に実験はしません。大部分の時間は研究費を獲得するための“政治活動”や会議などに費やしているようです。一方、学生のほうは比較的に自立性が強く、研究テーマが決まれば、後はかなりの部分において自分勝手に実験をして論文を書いたりします。それにしても遠隔指導の難しさを痛感しています。身近にいれば実験結果を見ながら一言二言で済む話でも、電子メールではなかなか正確に伝わりません。結局すべての実験データを電子メールで送ってもらってやりとりをしていると、時間が掛かって仕方がありません。今回の論文でも図表の修正は直接でしたら簡単に指示できるのですが、文章では相当難しく、何回もやり取りをしなければ意図は全く伝わりません。やはり遠隔指導は難しいです。
 中国の学生と接していると、何となく日本の学生と比較してしまいます。私が感じた一般論的なことを少し書いてみたいと思います。中国の学生は何とか自分の実験結果を早く論文にしようという気持ちが相当強いように思いました。実験結果が得られたら、とにかく論文を書き、指導教官に見てもらって、実験が足りないと言われたら、追加実験をする、そんな感じです。結局、証拠不十分なオーバーディスカッションの原稿になってしまうのが多いです。一方、日本の学生はある意味対照的で、完璧なデータを備えるまで、とにかくゆっくりと実験をつづけ、指導教官に論文を書けと言われなければ、論文作成には決して着手しない、というのはおそらく一般的ではないかと思います。作成した原稿は基本的に控えめで、たくさんのデータがあるのに、こんなしか書いていないと思うときがしばしばです。国が異なるので、教育・指導方針による違いもあるかと思いますが、底にある中国人と日本人の性格の違いもあらわれているかもしれません。両者の補い合いができればいいなと思いました。




[DNAから共進化を探るラボ 蘇 智慧]

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