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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【原点はカエルの卵】

山口真未

 ただいま博士論文の制作中です。かれこれ三年前にも確か修士論文の制作中で・・・といったことを書きました。月日の経つのは早いもので、無事に博士論文が受理されれば、春には5年間みっちりとお世話になった生命誌研究館を巣立っていきます。生命誌研究館に来て学んだことは数知れず・・・本当に皆様ありがとうございました。思い出を語るときりがないのですが、今回はこれまでの実験室見学ツアーの思い出について書いてみたいと思います。
 実験室見学ツアーは年に三回あって、来館者の方々に普段は入れない生命誌研究館の三階の研究室や四階の食草園などを見学していただくイベントです。研究の様子や魅力を味わってもらおうと、研究室ごとにいろんな趣向を凝らしています。
 私の所属する橋本研究室(脳のかたちはどうやってできるのかラボ)では、アフリカツメガエルを使って脳やいろいろな組織をつくる遺伝子の働きを調べているので、ツアーでは、水槽室で飼っている約300匹のカエルをはじめ、実験に使う機器類、実験したオタマジャクシなどをみながら、少し研究の話をしています。そのほかにも、ニワトリとオタマジャクシの脳の標本や卵からオタマジャクシまでの発生段階ごとの標本を自由に顕微鏡で観察できるよう展示したりもしています。ツアーの見学時間は短くて、しかも解説する研究室のメンバーの数もわずかなので、極力たくさんの方に楽しんでもらうにはどうしたらよいのか試行錯誤です。
 その中で単純だけど意外と人気があるのが、オタマジャクシの発生段階標本です。身近な生きものですし、かたちがはっきりしているので、観察には非常に適しています。たとえばトリは殻の中だし、イヌやネコはお腹の中だし、卵からかたちを変えていく様子(発生)はなかなか観察しにくいです。その点、カエルなどの両生類は発生が体外で進むので観察がしやすく、昔から発生の研究対象としてスター扱いです。実際、教科書などでも、カエルの卵が2つ、4つ、8つ・・と分裂していき、だんだんオタマジャクシになっていく写真があります。その実物を顕微鏡で見てもらおう、というものです。簡単に想像もつく単純なものですが人気があるのは、やっぱり実物!という迫力でしょうか。
 私も、生物の授業でカエルの発生は知っていましたが、研究室に入るまで実物は見たことがありませんでした。初めてその様子をリアルタイムで見たときに、どんどんかたちができていくことの不思議を実感しました。是非とも生命誌研究館に来た方たちにも発生の不思議を味わって欲しいと思い、さっそく標本をつくったというわけです。
 単に発生の様子を見ているだけでも面白いのですが、第二段階として、どうしてこんなかたちになっていくの?という不思議が湧いてくるかもしれません。卵のどこから頭ができて、尾ができて・・基本的なでき方は近年研究が進み分かるようになってきています。その秘密を知りながら発生をみると、また違った感動があります。そう思って、標本に対応した簡単な解説を壁に貼ってあります。もともとは手書きの壁新聞でしたが、今では研究室の皐さんの手によって素敵なポスターとチラシになっています。標本は持って帰ってもらえませんが、ここで見たことを思い出してもらえればと解説のチラシをお配りしています。
 この冬、私はサイエンスライティング講座に通い、サイエンスを表現する基本の手ほどきを受けています。何を誰にどのように伝えるために表現するのか、考えながらの講義です。その中での私のテーマとして、生命の形づくりの不思議を生命誌研究館の来館者に魅力的に伝える、ことを考えました。博士論文制作真っ最中のため、あまり時間と頭が使えないのですが、ツアーの時にお配りしているチラシの新バージョンをつくってみようと思っています。まだ試作段階ですが、面白いものができる・・はずです。生命誌研究館への5年間の感謝の気持ちを込めた置きみやげになる予定です。できあがった際には、是非お手元に。


オタマジャクシ発生段階のチラシ
旧・発生段階の壁新聞


[脳の形はどうやってできるのかラボ 山口真未]

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