研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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最近モンシロチョウの「休眠蛹」をつくり終えたばかりです。例年、秋が深まってモンシロチョウが飛ばなくなる時期が近づくと、「冬場」の実験への備えの一つとして、「休眠蛹づくり」をすることにしています。
「休眠蛹」というのは、野外で秋の終わりにできるサナギのことで、サナギになってもすぐには羽化せず(=成虫にならず)、そのまま冬を越して、早春になってから羽化します。「休眠蛹」を実験室でつくるには、幼虫を飼育するときに、明かりをつけている時間をかなり短くします(=短日条件)。反対に長くすれば(=長日条件)「非休眠蛹」ができて、これは10日ちょっと経てば羽化します。
ところで、モンシロチョウを短日条件下で飼育しても、休眠せずに羽化してしまうサナギが少し混じります。それに対して、日本にいる(モンシロチョウの)近縁種であるスジグロシロチョウやエゾスジグロシロチョウでは、短日で飼育すればすべての幼虫が「休眠蛹」になります。
「休眠蛹」を実験室で羽化させるには、2ヶ月ほど低温で保管してから、室温に移します。10日ちょっとで羽化が起こりますが、そのときスジグロやエゾスジグロではほぼ一斉に羽化しますが、モンシロでは何日たってもなかなか羽化しないものが混じっています。
こんなふうに、スジグロやエゾスジグロの休眠はきっちり行われますが、モンシロの休眠はすこし「いい加減」です。まれに、真冬にモンシロが飛んでいたりします。「スジグロやエゾスジグロは、温帯にきちんと適応した種だが、モンシロはそうではない。」とされています。またある人によれば、「モンシロは雑なチョウだ。」ということです。
この休眠の問題に限らず、確かに私自身もモンシロに対して「すこしいい加減なチョウ」という全体的な印象を持っています。しかし、モンシロは「強い」チョウです。「野菜畑に適応した種」とも言われますが、野菜畑のように「収穫」とともにいっせいにエサがなくなる環境でも、新たに(アブラナ科の)野菜が育つと、どこからともなく(?)やってきて、野菜を食害し繁殖します。この「強さ」は、モンシロのもつ「いい加減さ」「雑さ」に、根本的なところで支えられていると思いますが、いかがでしょうか。いい加減すぎるとダメですが、すこし「いい加減」である、というのが「強さ」の秘訣かもしれません。
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[チョウのハネの形づくりラボ 研究員 吉田昭広]
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