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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【SARSの影響】

蘇 智慧

 世界中を騒がした新型肺炎 (SARS) はようやく終息に向かい始めました。喜ばしいことです。このSARS騒ぎで、世界の多くの国が様々な影響を受けました。SARS発生の元となる中国では、4,5月の2ヶ月間、大変な緊張感に包まれ、人々が町にでるのが怖く、家にとじ込もる隔離生活を強いられてきました。中国への出入りも厳しく制限され、国際イベントや会議などは余儀なく延期または中止となりました。中国発世界に蔓延したSARSは、人々の往来を激減させ、航空業界や旅行業界などは大きな打撃を受け、世界経済にも多大な損失をもたらしました。同時期に起きたイラク戦争はあっと言う間に決着が付き終戦に向かいましたが、SARSウイルスに対して、人間が取れる対策は「隔離」に終始し、結局、そのウイルスの自生自滅に任せるほかに方法はありませんでした。このことは、人間の力の限界を改めて感じさせられ、戦争のような人間同士の戦いは、何の意味があるのか真剣に考える必要があるのではないでしょうか。
 人間には国という単位と国境というものがありますが、他の生きものにはこの概念は存在しません。私が研究対象としているイチジクとイチジクコバチは、熱帯地域を中心に世界中に分布しています。今年の5月に中国南端の島、海南島に研究材料を採集しに行く計画をしていましたが、SARSの影響で、やはりこちらも余儀なく延期となりました。先日WHOと日本政府は相次いで中国への渡航延期勧告を解除したため、今度こそ採集計画を実行に移したいと思います。海南島は日本の九州とほぼ同じ面積で、ハワイ諸島と同緯度に位置しています。島内には三十数種のイチジクが生息しており、近縁種間においてのイチジクとイチジクコバチの共生関係を調べる、格好な材料が採れることを期待したいと思います。ちなみに、海南島には15年前に一回訪ねたことがあります。広州から夕方発のフェリーに乗り、珠江を下りながら夜に向かいました。翌朝目が覚めたとき、あんなに巨大なフェリーが海の真ん中の小さな“点”となってしまいました。私が生まれて初めて海を見た瞬間でした。いきなり海の真ん中にいた私は、海の厖大さに呆然とし、その後、「海」の美しさに感動したことを覚えています。再び海南島を訪れることを楽しみにしています。




[DNAから共進化を探るラボ 研究員 蘇 智慧]

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