館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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ちょっと幸せ*
2018年10月15日
今ちょっと幸せな気持になっています。新著『ふつうのおんなの子のちから』(集英社クリエイティブ)を読んで下さった方から「幸せってこういうこと」と思ったという声をいくつもいただいているからです。帯に阿川佐和子さんが「シアワセってこのことよね!」と書いて下さった時には、“応援エール”として甘めの言葉かなと受けとめていたのですが(ひねくれてますね)、さまざまな方に言われて素直にうれしい、よかったと思っています。
そして、「生命誌」はこれを願って始めたのだと気づきました。遺伝子でなくゲノムという総体を見よう、そうすることで機械論から生命論へと脱却しよう。学問の世界としてはそうなのです。でも一人の生活者としてどうしても「生命誌」を始めたかったのは、このまま進むと幸せから遠くなるのではないかしらという危惧でした。小さな生きものたちの「生きている」を見つめることを通して「生きる」を考えれば、難しいことを抜きに「生きる幸せ」がわかるだろうと考えて始めたBRH。これまでは皆の努力で、また多くの方に支えられて着実に歩んでくることができました。ところで今、学問としては、少し行き詰まりを感じています。出自である「科学」にこだわり過ぎずに、もう一度出発点に戻って幸せに近くなるにはこれから何をすればよいのかを考える時がきています。
「ふつうのおんなの子」が、「幸せ」という言葉で受け止められたことに力を得て、肩肘張らずに“ふつう”に考えて答を探したいと思っています。小さなことで結構です。お気づきのこと、お考えをお教え下さい。
*「ちょっと幸せ」と書いたのは、社会全体が幸せの方向に向いているとは思えないからです。