館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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暮らし方に正解はありませんけれど
2017年11月15日
ある会合でお会いした月尾嘉男さんが「僕は『季刊生命誌』の創刊号から全部揃えて持ってますよ。面白く読んでます。」と言って下さり、しばらく話がはずみました。ほぼ同年代で長い間のおつき合いですから月尾さんと書きましたが、東京大学名誉教授、街づくりが御専門であり、早くからそこに情報を生かすことの大切さを指摘されてきた先生です。AIで自動車が走りまわる時代の先取りをしてきた方ですが、ちょっと意外なことをおっしゃいました。車の免許証を持っていない、というより取得しなかったのだそうです。免許を持てるようになった18歳の時に考え、自動車を運転すると事故を起こし、時に人命を奪うことにならないとも限らない、人の命には責任は持てないと思って止めましたとおっしゃるのです。私は18歳の時、自動車学校へ通いました。父が新しいことが大好きで、当時はそれほど多くはなかった自動車が家にあったのです。月尾さんのように考えることもなく、なんとなく楽しそうだと思って通ったのでした。でも結局免許証はあまり生かしませんでした。最初の頃父に助手席に乗ってもらって運転していた時、細い道から大通りへ出ることを急いで安全確認が足りなかったら父がものすごく怒ったのです。「バカ」と怒鳴られました。それまで大声で叱られることなどなかったので、本当にびっくりしてシュンとなりました。同時に、車はもしかしたら人の命を奪うかもしれないものだと実感し、結局車を使わない暮らし方を選ぶことになったのです。幸い、東京は電車でどこへでも行ける便利さがありますから。月尾さんは、情報の研究をなさりながら、街づくりには先住民の知恵を生かす必要があると言われています。生命誌と重なるところがありますので、またお眼にかかってお話するのを楽しみにしています。