館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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しがみついていた栗
2015年10月1日
熊本県の農業高校での校長職を最後に退職なさり、今は故郷で栗園経営を楽しんでいらっしゃる先生。8年前に農業クラブ九州大会に伺って以来のおつき合いで、ありがたいことに9月終り頃に御自慢の栗を送って下さいます。ところが今年は、9月初めに栗が届きました。お電話で伺ったところ、台風15号の直撃でほとんどの実が落ちてしまったので、農協への出荷は諦め、自家用だけになったとのことでした。「お送りしたのは猛烈な風雨に耐えて、しっかり枝にしがみついていた奴らです」とのお話に、改めてじっくり味わわなければと思った次第です。木に残った実は、いつもより早く熟したそうで、厳しい世の中、早く子孫を残さないと危ないぞと思って頑張ったのでしょうとの説明に、なるほどです。生きものにとって最も大事なのは、つなげて行くこと。栗も考えたのですね。
それにしても、一年間面倒を見てやっと収穫という時に、台風でほとんどの実が落ちてしまうなんて、辛過ぎますよね。それに対する電話の向うの先生のお答えはこうでした。「でもね。育ててくれたのは自然なんですよ。僕の専門は野菜。とくにトマト、スイカ、メロンの育て方を長い間生徒たちに教えてきました。そしていつも、タネを蒔いておくとお日さまが照り、雨が降って育ててくれる。ありがたいことだねえと言ってきました。時に荒れることもあるけれど、それが自然なんですから。また来年に期待です。」その通りですけれど、でもすごいなあ。ここが自然と直接向き合っている方の強さであり魅力です。
関東地方の豪雨で鬼怒川の堤防が決壊。実った稲穂の並ぶ田んぼが水浸しになっている映像に胸が潰れる思いでしたが、農家の方は来年また田植えをなさるでしょう。想定外などという言葉を吐くことなく。ここから逃げ出して工業化を進めお金で事を解決しようとしてきたわけですが、それが本当の答なのかと考えてしまいます。自然との向き合い方を真剣に考えることが大事だと思っています。