館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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続いてはカタカナ言葉
2015年2月16日
動くと働くの話で多くの方から興味深いお話が届きましたので、気をよくしてもう一度言葉について考えます。カタカナ言葉です。考えたいものはたくさんありますが、まず「トリクルダウン」。普通の言葉としては雨などが「したたり落ちる」ということですけれど、最近新聞などで使われているのは経済用語としてです。「富裕層を更に富ませれば、自然に貧しい者にも富がしたたり落ちる」という思想と解説されています。実はこんなことは少しも実証されていないと、最近話題の「21世紀の資本」の著者、ピケティ教授がおっしゃっていますが、それでも自由主義経済の信奉者は大事な考え方としているようです。経済学としての評価はしろうとの私にはできませんが、この言葉を聞く度にイヤーな感じがします。貧しい者という言葉の中に、人間を人間と見る姿勢が感じられないからです。まずお金ありきで、一人一人が本来差別などない人間として存在していることなどお構いなしです。もちろん富がまったく平等に分配されることはないでしょうし、富だけに価値があるわけでもありません。でも人間の側から考えたら、「トリクルダウン」などという失礼な言葉が出てくるはずはありません。「経済思想」などと偉そうに言わないで欲しいと思います。経済学者も生活者としての感覚を失なわないで欲しいものです。
最近の金融経済を見ていると(カラクリは全然わかっていないのですが)、経世済民とはほど遠い、人間性の感じられない判断が多く、「トリクルダウン」もその一つです。カタカナなので、ピンと来ないうちに流行ってしまい、言葉としてきちんと検証せずに軽い気持で使ってはいないだろうかと気になります。このような例は他にもたくさんありますね。
P.S. 2月21日(土)に国際高等研主催で「科学と科学者のあり方を問う」というパネルディスカッションがあります。そこで、「科学も科学者も変わらなければダメですね」というお話をします。場所は一橋講堂で13:00から。BRHのホームページに詳細があります。間近な話ですが、もしお時間がありましたらいらして下さい。