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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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今年の言葉は「寛容」

2015年1月5日

新年おめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
今年の初めに考えたいことは、「寛容」です。

昨年末の選挙で「この道しかない」という言葉を何度も聞きました。実は政治家がこの言葉を使うのを近い過去に二度聞いています。一つは、ソ連のペレストロイカで、途中から「この道しかない」という言葉を使い始めたことです。この改革はさまざまな考えを認める方向のはずでしたのに、共産党中央委員会が、この路線を「この道しかない」と言って多様性を否定したために、結局ソ連崩壊という結果になったのです。もう一つは英国のサッチャー元首相です。大英帝国の権威を取り戻すことを期待されての女性首相は、だんだん他の人の話に耳を貸さず「この道しかない」というやり方になっていきました。さすが英国は壊れはしませんでしたが、暮らしやすい社会から遠くなったのは確かです。

信念を持つことは重要です。でもそれを現実につなげるには多様な道を探らなければならず、自分と違う意見も聞かなければなりません。『ローマはなぜ滅びたか』という著書で塩野七生さんが、ローマの繁栄を支えたのは寛容の精神であり、それを失なった時、さすがの大国も滅びたのだと言っています。

リーダー達が「この道しかない」と言う時は危険なのです。社会の人々も寛容さを失なっているように思います。イモリやチョウやクモの声も聞きながら、多様な道の中から今何を選んだらよいか慎重に考えることにしようと思っています。皆が寛容である社会を思いながら。

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