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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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ニュートリノが身近に

2014年6月16日

六月に入って、地球についてのとても興味深い研究に接しました。しかも二つも。生きものを知りたかったら、科学という分析でなく誌という歴史物語を読み解かなければいけないと思ってきましたが、最近、生きものに限らず自然を知るのは「誌」ではないかと思い始めています。そう思っていたら地球についてまさに「誌」と言ってよい話を聞いたのです。今日は、そのうちの一つを書きます。「ニュートリノ」研究、東北大学の井上邦雄教授のお話です。私が初めて知ったというだけのことで、物理学ではすでによく知られている研究ですから御存知の方も多いと思いますが。ニュートリノはなんでも通り抜けるとか、それに重さがあるかないかということが宇宙のありようを考えるうえで大事であるなどと教えられても、かなり遠い存在でした。超新星爆発があったために、巨大装置カミオカンデに偶然飛んできたニュートリノをつかまえることができたと聞いても、運がよかったですね、もし星が爆発しなかったらどうなっていたのでしょうとしか思いませんでした。ところが、井上先生のニュートリノは身近です。地球ニュートリノなのですから。46億年前に生まれた地球は火の玉であり、それが冷えてきています。最初は急激に冷えて海のある水の惑星になり、その後も地球は冷え続けています。一時間あたり38兆キロカロリーの熱を宇宙に放出しているのだそうです。これほどの熱を出しても冷え切ってしまわない、つまり地球が生きている理由の一つは、地球創生期の熱がまだ残っているからですが、一方で、地球内部にあるウランやトリウムなどなどの放射性元素が核崩壊する時に発生する熱もあるはずです。しかし、これまでこの測定はされていませんでした。井上先生のグループは、カムランデと呼ばれる放射線検出器を考え出し、それを用いて地球内の放射性元素から出る弱い「地球(反電子)ニュートリノ」を検出したのです。その測定により放射性元素から出る熱量は地球が放出する熱の約半分とわかりました。とても大きな値です。ここからすぐ思うのは原子力発電所もニュートリノを出しているのではということです。その通りで、普通に測定すると地球ニュートリノはその陰に隠れるほどですが、そこの工夫をしたのが井上グループです。最近原子力発電所が止まったので、地球ニュートリノが際立って見えてきたデータを見せていただき、皮肉なことだなと思いました。これは研究のほんの一部であり、地球のありよう、地球の歴史がわかってくる魅力的な研究です。ここから地球誌、更には宇宙誌を語るすばらしい展開があるはずでワクワクします。

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