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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【新年度です。今年もよろしくお願いします】

2009.4.1 

中村桂子館長
 新しい年度です。桜が咲くこの季節に新しい気持になるのは、日本の風土に合っていますね。いくつになっても、小学校以来、新しい学校へ入った時の気持と変わらない緊張があり、それを柔らかい陽ざしや次々と開く花が包んでくれるのが快いのです。そして何か新しいことがやりたくなり、できそうな気持になる。これが大切だと思います。
 ところで、最近悩んでいます。1980年頃、今から30年ほど前に生命科学でなく何かを求めて10年悩み、「生命誌研究館」で整理ができたということはこれまでも何度も書いてきました。研究館の建物が建って活動を始めてから16年、館の人はもちろん、周囲の人たちに援けられて、順調に進んできました。よい方向を向いていることは確かですし、楽しい日々です。でもこのくらいたつと、社会も変わり、自分も変わり、先回の“卵の話”も含めて、考えなければならないことがたくさんたまってきます。それを組み込んで「生命誌」をより深め、豊かな知にしなければならない・・・青臭いのを承知で言うなら、生命とか人間とか意識とか面倒な問いへの向き合い方が甘いのがわかっていながら知らん顔していてはいけないだろうなと思うのです。
 前に悩んでいた時は、まだ「ゲノム」という切り口にあまり多くの人の関心がありませんでした。ですからこの切り口を使えば新しいことができたのですが、その後ゲノムが研究の中心となり、しかもそれは役立つ研究のためとなって、本来のゲノムのもつ意味など無関係に事がどんどん進んで行くのです。この辺りでもう一度考えなおして、本当に“生きるそのこと”を考える立場を改めて出して行きたいと思っています。
 これから10年悩むのはちょっとしんどいなあ、もうあのときのようにはできないなあと思いながら、でもこのまま放っておくのもいやだなあと、頭の中はくるくるしています。暫く悩みにおつき合い下さい。そしてお知恵をお貸し下さい。

 【中村桂子】


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