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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【今年もありがとうございました】

2004.12.15 

中村桂子館長
 ことしもそろそろ終りです。本当に平凡な感想ですが、一年は早いですね。「生命を基本に」という軸で考えていると、気になることの多かった年です。“とても危ういところにいる”と思うことがたくさんありました。人間社会のことだけでなく、自然も危うさを感じさせました。異常な暑さ、台風、地震・・・とくに暑さや台風は、もしかしたら私たちの暮らし方が原因になっているのではないかと思えるところもありましたから。
 「生命を大切に」というあたりまえのことを見直せば、このおかしな不安定感から抜け出せるのに、なぜ、生命よりお金や権力の方が大切であるのかのような振る舞いが目立つのか、とくに生命科学研究の中にもその傾向が見られるのが気になりました。そんな気持ちからまとめたのが「ゲノムが語る生命」(集英社新書)です。例によって、期限が来て急いでまとめるという形になり、反省するところ、不足なところのたくさんある本になりましたが、今思うことの一端を著したものです。生きる、変る、考える、重ねる、耐える、愛づる、語るという動詞に思いをこめました。手にとっていただけたら幸いです。
 実は先日、新聞記者の友人が、作家の小川洋子さんが阪神・淡路大震災で亡くなった6,433人のお一人お一人の名前を覚えようとしているとおっしゃっていたことを教えてくれました。小川さんと言えば、「博士の愛した数式」の著者です。数がこんな風な切り口になるんだと新鮮な気持ちを持たせてくれたすてきな本です。小川さんは人間はどこから来てどこへ行くのかという答のない問いを抱えて生きていく人間が必要としているのは「物語」であり、答は出ないけれど淡い光がさし出せる物語を書きたいと言っていらっしゃいました。6,433人という大勢の方が亡くなったからと言ってそれを数にしてはいけない。それは一人、一人の大切な人間なんだ。それが名前を覚えようという気持ちを生んだのだそうです。そうですよね。日々の事柄の記憶もあやしい身としては、本当に覚えるのはとても難しいのであきらめますが、おっしゃっている意味はとてもよくわかりますし、気持は共有します。生命を大切にということの具体だと思います。
 個人的には、今年は音楽をとても楽しんだという実感があります。とくに初めて接する演奏や曲で。チャンチキトルネードは東京芸大の管楽器の卒業生の集まりで、名前と合っているようないないような魅力的なグループです。女性作曲家を掘り起こしている小林緑さん(東京音大教授)のおかげでこれも思いがけない楽しみでした。
 ちょっと早目ですが、今年一年ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。そして来年は、今年以上に皆さまのお声を聞かせて下さい。お気軽に書き込んで下さい。よいお年をお迎え下さいますよう。
 
 
 【中村桂子】


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