館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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新聞を読んでもテレビを見ても憂鬱になることが多いこの頃です。日々伝えられる事柄を、政治、経済、外交と言ってしまうと、それに関して十分な知識のない者が勝手なことを言ってもしかたがないと思いますが、生きものとしての人間を大切にしたいと思っている眼で見た時に納得いかないことばかりという気がするのです。今日も会議でお隣に坐った川那部浩哉先生が発言の時に「最近の世の中イライラすることが多いので・・・」と前ふりをしてらっしゃいました。いろいろな方が書かれたものの中にも、気が重いという言葉をよく見かけます。たいていのことは明るい方を見てクヨクヨしない性質と自己評価している私も、皆さまと同じくというのが本音です。ところが、先日、彫刻家の船越桂さんがテレビで「世界中でいやなことがあって、腹が立ったり、やり場のない怒りを感じる。でも人にはそれぞれ役割がある。怒りをぶちまける役割を与えられているのはボクではない。こんな時でも、静かに、人間を肯定していきたい。それが自分の役割だと思った時にボクなりのことができると思えてきた」とおっしゃるのを聞いてスーッと気が晴れました。肩から重いものがとれていくような気がして。私も怒りをぶちまける係じゃない。そう思いました。船越さんは、人間は壊したり崩したりするだけの存在ではない。創り出すことができるのだともおっしゃっていました
船越桂さんの木彫りの人物像は、どれもなつかしさを感じさせると同時に今ここにいるという存在感があって大好きです。確かにそれは、怒りをぶちまけても何にもならないと語ってくれています。現実から逃げるのではないけれど、静かに見るべきものを見て、やるべきことをやっていこうと改めて思いました。私のやることと言ったら・・・「生命誌」ですね。
P・S
ところで今年度のカードは去年と少し変えてみました。少し読みもの性を高めて。御意見をいただければありがたく思います。最後のクラフトはチョウ。昨日お会いした堀越弘穀先生が、「机の上に飾っていますよ」と言って下さいました。こういう時が嬉しいんですね。
【中村桂子】
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