館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【映画「On the way」が完成】
2001.7.15
地球にはもともと国境が引かれているわけではありません。もちろん、山や川で人々の暮らす場所は区切られていますし、そのような自然を境目にして国境もできたきたわけです。ところが19世紀から20世紀、近代国家が誕生する頃になると、地図上に直線が引かれ、それが国境になるという例が出てきました。アフリカの地図を開くと定規で引かれたような直線が目立ちます。更に20世紀の半ばには、直線による一つの国の分断まで行われました。どこかおかしい。地球上の生きものすべてを仲間と見るという生命誌の視点からの疑問と、韓国人という分断の経験者としての疑問とが重なり、話し合っているうちに、「開かれた境界」というやや矛盾を含む言葉が生まれました。映像としての作品はもちろん崔さんのイメージによるものですが、物語りの流れを語る詩(というほどではありませんが)を私が作りました。英語に翻訳し、イギリスの舞台俳優が朗読してくれたのですが、とても落ち着いた表現で、気に入っています。それにしても、表現の難しさをまた一つ実感しました。科学にも表現が必要だと考えて、仲間と一緒にあれこれ試みているなかで、館内展示がやっとまとまりのあるメッセージが出せる形になってきたかなと思っていると書きましたが、まだまださまざまな形の表現を試みていきたいと思います。次回、もう一つの新しい試みを紹介するつもりです。 |