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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【ミツバチマーヤの冒険】

2001.5.15 

 連休はいかがお過ごしになりましたか。今年は祝日の組合せがよかったので、旅行が多かったようですね。私も4月には、今年こそ温泉にでも行こうかしらなどと話していたのですが、「出かけるより家でのんびりして祖師谷温泉へ行ったほうが楽だなあ」となりました。祖師谷温泉は家から歩いて20分ほどのところにあります。そして結局は家のお風呂に「名湯の素」を入れて、ゆっくり入るというところに落ち着いたという、、、実はこれ毎年のパターンなのです。
 連休の恒例作業は庭の草取りです。この時期花や緑が最高に美しくて気持ちがよいので、これが楽しい。まず隅の方にある筍掘りから始めるのですが、同じ草でもその年によって特徴があります。と草の話だけでもいろいろあるのですが、今年はいつもと違う「事件」があったので話はそちらにとびます。
 我が家の庭は東京の西のはずれにある国分寺崖線という崖なので、煉瓦積みの階段になっており、その段の一つ、1m×1m×1mくらいの中にニホンミツバチが巣を作っています。中は見えないのですが、小さな口から出たり入ったり、せっせと花粉を運んでくるのを眺めていると見飽きません。「ニホンミツバチは刺しませんよ」という専門家の言葉通りです。ところが4月30日、巣の近くで、ちょうどよく育った小松菜を収穫していたら、頭のまわりをブンブンブンブン、、、いつもと様子が違うのです。そして、ついに首を刺されてしまいました。なんだかおかしい。いつもは低いところをまっしぐらに花の咲いているところへ飛んでいくのに大勢で高いところを飛び回っています。分蜂に違いないと手元にある百科事典などを調べましたがよく分かりませんでした。5月3日、たまたま訪ねてきていた高校の同窓会の方たちが、藤棚に大きな蜂の巣があると騒ぎ出しました(写真1)。まわり中ハチだらけ、皆で羽をバタつかせるのでかなり大きな音がします。これは何ものか。わからないままに翌朝また草取りに外に出たら巣だと思っていたものは影も形もありませんでした。キツネにつままれたようです(写真2)。専門家に教えていただきました。まさに分蜂、 だいたいこの季節に起きるのだそうです。新しい女王蜂を中心に巣を出ていく群が魂を作って一時休憩。この時、偵察隊が新しい巣を作るのに適した場所を探しに出かけているのだそうです。巣だと思ったのは全部ハチの塊だったわけで、びっくりしました。本当ならこの塊を箱の中へ入れてしまえばそこを巣にして暮らすようになり、観察もできるし、ハチミツも分けてもらえたのに惜しいことをした、でもそういう現場を見られたのは運がよかったのですよ、、、小学校の先生でミツバチ飼育のベテラン、新子谷先生に慰められました。次の機会には先生が箱を下さるということになり、楽しみにしています。
 分蜂があるということは教科書的には知っていましたが、実物に接したのは初めてで、そうなると文献を見ていてもミツバチという文字が眼にとびこんでくるからふしぎです。ミツバチの脳の遺伝子を調べて社会性を支える分子メカニズムを探る研究が行われていることにも初めて気がつきました。これから少し勉強してみようと思います。



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