館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
バックナンバー
【進化という言葉】
1999.11.15
私たちは言葉で考えますから何か新しいものや概念が生れたらそれに名前をつけなければなりません。「進化」という日本語は、「Theory of Evolution」という英語の訳語「進化論」として19世紀末に作られた言葉です。もちろん今では evolutionという単語を英語辞典でひけば「進化」と出てきますが、元来の evolution は evolve 、つまり巻きものを開く、展開するという意味の言葉です。ダーウィンが示したことは、現在はある種の中で多様化している生きものも元をたどると一つの祖先に戻るということですから、まさに「展開」です。ところが当時のイギリス社会にあった「進歩」の思想をもつ人々は、この事実よりも、適者生存、自然選択という展開の背後にあるとして示唆されたメカニズムの方に眼を向けました。適者が生き残るのなら、よりよいものが残り、よりよいものになっていくはずだ。まさに「進歩」があるはずだということです。そして、人間もそうであるはずだといういわゆる社会ダーウィニズムが生れました。このような背景で日本に導入された「Theory of Evolution」は「進化論」と訳されたわけです。本来なら、「展開説」とでも呼ぶのがよいと思うのですが。進化論と展開説では、そこから浮ぶイメージが違いませんか。 進化そのものについてはまた次回に。 |