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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【生物学を開いたものに】

1998.6.1 

 今日東京から大阪への移動のための新幹線の中で、細胞生物学の教科書に眼を通していました。細胞生物学の教科書といえば、その一つにDNAの二重らせん構造の発見でノーベル賞を受賞したT.D.ワトソンが音頭をとり米英の研究者が協力して書いた「Molecular Biology of the Cell (細胞の分子生物学)」があります。あります・・・ではちょっと空々しい。この本を見た時、そのあまりの出来栄えに感服し、翻訳したのが1984年。それからこれまでに改訂が二度も行われ、その度に日本語にすることになり、悲鳴をあげたものです。とにかく、この分野はとても急速に進んで面白いことが次々わかってくるので、教科書もどんどん新しくなるというわけです。
 話は横道にそれましたが、新幹線の中で読んだものは「Essential Cell Biology」。「細胞の分子生物学」を書いた若い仲間が、生物学の専門家でなく、文科系の人にも細胞生物学を知ってもらうことが大事だと、そのエッセンスをまとめた、元の教科書よりは薄くてやさしい本です。そこまで来ている。生物学自身、もっともっと開かれたものになる、なる必要がある、なると面白いという時代になっているのだと思います。この本も日本語にしようと思っています。本当は自分で書かなければいけないのですが、残念ながら、彼らに先を越されます。教科書づくりというところまで含めて、日本の力をもっとつけたいと思います。

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