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研究館より

ラボ日記

2025.01.15

独創性の源を求めて

新年を迎え、新しい目標に向かって頑張ろうと考えている方もおられるかと思います。私も、歳を取りながらも、まだこれから自己の可能性を伸ばせることはないか、自分だけしか築けない価値はないかと、思いを巡らせています。

私の研究の最終目標は、動物の体の作りが多様化する過程をコンピュータ上の進化的実験で再現することです。簡単でないことは分かっているのですが、今の時代、技術的発展を期待できるだけに、遠くを見据えて研究を展開することの重要性を感じています。

Artificial intelligence(AI、人工知能)の進歩の勢いは止まるところを知らず、Natureダイジェストの最新号(2024年12月号)では、開発段階の「AIサイエンティスト」の実力についての記事がありました(Researchers built an ‘AI scientist’ - what it can do? Nature Vol. 633 (266) | 2024.9.12)。AI サイエンティストはどうやって働くのか? 記事によると、大規模言語モデルを基礎とし、機械学習アルゴリズムを使って文献検索し、得られた情報を元にコンピュータ上で測定と評価を伴う「実験」のサイクルを、進化的計算手法を組み入れて回すらしい。生き物の進化と同じように、変異と自然選択を働かせ、効率が良くなるものを探索する仕組みだ。しかし、このような仕組みでは少しずつ良い方向に導く漸進的な発展しかなく、人間がなしうる独創的な展開を得ることは難しいと、現状のAIサイエンティストの限界が記事の中で指摘されている。

生き物の進化の仕組みを取り入れたAIサイエンティストに独創性がないというが、生き物の進化に独創性がないわけではありません。独創性の源を解き明かしたいと思うことは、AI開発者も生物学者も同じだと思います。最近訳本が出版された「廻り道の進化 – 生命の問題解決にみる創造性のルール」アンドレス・ワグナー著(和田洋訳)がヒントを与えてくれるかもしれません。

動物多様化の背景にある細胞システムの進化に興味を持っています。1) 形態形成に重要な役割を果たす細胞間接着構造(アドヘレンスジャンクション)に関わる進化の研究と、2) クモ胚をモデルとした調節的発生メカニズムの研究を行っています。