1. トップ
  2. 語り合う
  3. 研究館より
  4. 今年もシンポジウムを開催します @JT生命誌研究館

研究館より

ラボ日記

2024.07.02

今年もシンポジウムを開催します @JT生命誌研究館

私は動くものに惹かれて研究してきた。学生のときはショウジョウバエの初期胚の腹側の折れ曲がる様子に惹かれた。と言ってもその当時は、直接の動きではなく、Maria Leptin博士やEric Wieschaus博士らが論文の中で示していた光学顕微鏡や電子顕微鏡の静止画像によって想像を掻き立てられていた。博士号をとってから、カドヘリンにクラゲの蛍光タンパク質を繋げ、ショウジョウバエの初期胚に発現させて、まさに細胞のシートが折れ曲がっていく様子をリアルタイムで観察できたときの感動は忘れられない (https://doi.org/10.1242/jcs.114.3.493)。10分の間に細胞はみるみると形を変えていく。暗室の中で、細胞の頑張りを見守り、応援した。細胞はなぜ動けるのか? 今も変わらない私の問いである。

細胞が動くには何らかの細胞と細胞の間の接触面がある。その接触面はどうなっているのであろうか? そこでは分子が動いているのか、ズレているのか? 問いはどんどんと小さな世界に入っていく。しかし、分子の振る舞いを見ることはそう簡単ではない。

1分子ごとの存在を可視化することは比較的容易であるが、分子構造が変化している様子を見ることは困難である。私たちの2021年の論文(https://doi.org/10.1242/jcs.258388)でも使った、高速原子間力顕微鏡はその困難を克服するひとつの技術であるが、分子の細かな構造の変化を捉えることはできない。細胞の様々な現象に関連して起こる分子構造の変化を見てみたい、というのは生命科学の先端研究者の共通の思いであろう。

6月のNatureダイジェストに「タンパク質画像は動画の時代に」という記事が出ている(https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v21/n6/タンパク質画像は動画の時代に/126640)。その中で、アクチンとミオシンを混ぜて10ミリ秒後と120秒後にそのタンパク質の構造をクライオ電子顕微鏡で観察して、原子レベルで分子構造の変化の時間的前後関係を解明したというプレプリント論文(https://doi.org/10.1101/2024.01.05.574365)の紹介があった。たった2コマしかない動画であるが画期的である。これまでの分子構造の解析は分子の安定な状態(平衡状態)を解明したものがほとんどであるが、分子材料を混ぜて瞬間的に構造解析用のサンプル作成を行う技術の開発で、安定な状態から別の状態に移る瞬間を捉えた構造解析が可能になることが期待されている。

私たち生命誌研究館でもタンパク質研究に踏み出しているが(https://www.brh.co.jp/salon/blog/diary/detail/479)、生命進化の観点から言えば、それぞれのタンパク質には多様な個性があり、その構造、機能、仕組み(振る舞い)が獲得された進化の瞬間があったのだろうと想像している。

そんな思いにフォーカスして、昨年に引き続き今年も生命誌公開シンポジウムを行います(2024年9月28日(土))。テーマは、「生きものの多様性の源泉を探る〈分子構造の進化から見る世界〉」です。近日中に詳細をホームページ(https://www.brh.co.jp/news/detail/975)に掲載しますのでぜひご参加ください。

動物多様化の背景にある細胞システムの進化に興味を持っています。1) 形態形成に重要な役割を果たす細胞間接着構造(アドヘレンスジャンクション)に関わる進化の研究と、2) クモ胚をモデルとした調節的発生メカニズムの研究を行っています。