研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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イチジクを食べるハエの新種
2019年10月1日
DNAから進化を探るラボでは、イチジク属植物とイチジクコバチ類の共進化を調べているため、野外調査に出かけイチジクの花嚢やコバチを採取しています。現地で、イチジクの花嚢を割って、中にコバチがいるかひたすら確認していくのですが、コバチと同じぐらいかそれ以上の頻度でハエの幼虫が入っています。それがクロツヤバエです。
このハエの仲間はイチジクの花嚢を食べる(植食性)種と花嚢内のコバチを食べる(捕食性)種に分けられますが、捕食性の種を世界で初めて発見したのが、以前、当ラボに奨励研究員として在籍していた岡本朋子さんなのです。岡本さんが発見したイヌビワコバチを捕食するハエは、後にSilba inubiwaと名付けられました。また、同じ論文で、花嚢を食べる別の2新種も報告されています。日本におけるクロツヤバエの研究には当ラボが大きく貢献していたのです。しかし、その後、このハエの研究は止まってしまっていました。
そこで、昨年より、分類をメインにクロツヤバエの研究を再開しました。まずは、ひたすら、南西諸島や台湾でイチジクの花嚢からハエの幼虫を採ってきて、育て、羽化させ、成虫の標本を集めました。しかし、死亡率が高く、飼育した個体の2〜3割ほどしか成虫にできません。まだ上手な飼育方法がつかめておらず、とりあえず数打てば当たる戦法で、大量に飼育し、2年間でなんとか400個体ほどを確保することはできました。
集めた標本を解剖し、交尾器を比較したところ、3種のイチジクの花嚢から得られたハエ標本には5種の未記載種が含まれていました。これは驚きの結果です。イチジク1種に複数種のハエが対応することになります。ただ、アコウやガジュマルのように、クロツヤバエが全く見られないイチジク種もありました。あるイチジク種はクロツヤバエに好かれており、別のイチジク種は全く好かれていない。いったい何がどうなってそのような状況になったのでしょうか?生き物の多様性は調べれば調べるだけ、謎が湧いてきます。
2年間の成果の一部は、論文にまとめ投稿中なので、近いうちに日の目を見ると思います。ホームページで報告できれば嬉しいです。