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研究館より

表現スタッフ日記

2024.06.04

畑から見つめる生命誌

数年前から小さな畑を借りて作物を育てています。農薬や化学肥料を用いず、耕さずに、自然の営みに添って作物を育てる自然農をささやかながら自分でも実践してみようと、貸主の農家さんに教わりながらいろいろと育てて楽しんでいます。

実際にやってみると、元気に出てきたダイコンの芽が野草に紛れていつの間にか消滅してしまったり、ようやく収穫だと楽しみにしていたサツマイモを夜の間にやってきたイノシシが全部食べてしまっていたり…。難しいなあと思うこともありますが、立派に育って実りをいただいた時の嬉しさは格別で、喜びいっぱいになります。この6年間で最初のころよりも土壌が少しずつ豊かになり、作物たちもその場に馴染んで生き生きとしてきたように思います。その変化も楽しみの一つです。

畑では、作物とともに、ヨモギ、スイバ、カラスノエンドウなど、たくさんの野草も季節ごとに入れ代わりながら共存しており、それらの植物のもとには、バッタやチョウなど様々な昆虫がたびたびやってきて、食事をしたり、子孫を残したりします。そんな昆虫を捕らえるクモやカエルの姿を目の当たりにすることも。また、土を掘れば、植物のしっかり張った根の周りで活発に動き回るミミズやダンゴムシと出会います。その近くでは、目には見えませんが、無数の小さな微生物たちが、枯れた植物や動物の死骸、糞などの有機物をせっせと分解していることでしょう。ほんの小さな空間ですが、ここでは、日々生きもの同士の生きる営みがダイナミックに繰り広げられています。そして、こうしたたくさんの生きものの営みによって生じた土壌中の豊富なミネラルを取り入れて、作物は育ってゆきます。私たちはその恵みをいただいているのです。

このように、土に触れ、多様な生きものたちとともに畑仕事をしていると、「ああ、つながっているな」と肌で感じます。つながりの中にいる自分を実感します。自然の中で、生きものは時間と空間を共有してつながり、世代を経て移り変わりながら、続いている。自分もまた生きものの一員、つながりの一員であって、こうしてたくさんの力をいただいて、生かされている。そのように思う時、自然との一体感とともに、「ありがとう」という感謝の思いが湧きあがり、なんともいえない幸せな気持ちになります。私にとって、これこそが、畑からいただいている一番の実りです。

昨年、館内展示ガイドをさせていただくようになり、生命誌絵巻をもう一度じっくり見つめていた時に、ふいに、「人間は生きものであり、自然の一部である」という生命誌のとらえ方と、自身の畑仕事での体感が一つになるのを感じました。それまで頭の中では納得していたつもりでいましたが、実際に肌で感じた体感を伴うことで、絵巻に表現された世界観が一気に身体の細胞にまで深く沁み渡っていくような不思議な感覚でした。

始めた当時は意識していなかったのですが、このごろ、多様な生きものの共存共栄を基本とした自然に添った農の営みが、生命誌の世界観を社会の中で体現していく一つの形として、とても大きな可能性を秘めているのではないかと感じています。生命誌の視点を社会に生かしていく生き方の自分なりの実践として、これからも気長にゆったりと畑仕事を続けていきたいなと思っています。

太田見恵 (館内案内スタッフ)

表現を通して生きものを考えるセクター