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研究館より

表現スタッフ日記

2024.05.15

初めまして

この5月より表現セクターに勤務しています、阪内香です。この場を借りて簡単に自己紹介をさせていただきます。

東日本大震災の後、琉球大学の大学院で放射線生物学を学び、福島原発事故による野生生物への生体影響を研究してきました。福島は私が生まれ育った土地です。対象はヤマトシジミという小型のチョウで、「フクシマで何が起こっているかはフクシマに聞くしかない」というのは大瀧丈二先生(私の指導教員)の言葉です。芸術大学(写真学科)を卒業し、生物学の素養もないまま、「ここだ!」と研究室の門を叩いた日のことを改めて思い返しています。フクシマでは、ヤマトシジミもその食草や蜜源も、捕食者も、共生者も、寄生者も、みんな一緒に被曝環境下に暮らしています。コントロールされた実験室とは違い、野外には低温や乾燥、病原菌などの環境ストレスもあります。放射線とチョウを抜き出すのではなく、生態系ごと、つまりフクシマを丸ごと議論しなければなりません。生命誌絵巻が表現する「生命のつながりと広がり」に重なるものであり、だからこそ今回も「ここだ!」とこの職場への応募に至ったのだと思います。「ここだ!」という直感は、いつも登りがいのある高みの前に私を連れて行ってくれます。これまでの研究者としての仕事とこれからの表現セクター研究員としての仕事との間にどんな発展的なつながりを見つけることができるか、今、最初の一歩を踏み出したところです。

館内の展示スペースでは、肺魚とナナフシが飼育され、オサムシの標本が並び、屋上にはチョウのための食草園もあります。同セクターでは、研究者としての経歴の有無を問わず、みんな生き物の話をしています。自宅のベランダで孵化したナミアゲハの幼虫を手に出社するMさん、食草園から間引いたセリを大切に持ち帰るOさん、保全活動に参加し夜中にホタルの光を数えるHさんもいます。日常の自然に目を凝らし、発見し、慈しみ、側にいる人と共有する、生命誌を語るにふさわしい面々です。身の回りの小さな生き物たちとの出会いをひとつひとつ記していくような姿を眺めながら、私もそうなりたいなと思っています。その先に、本館の目指す「どう生きるか」が見えてくるはずです。明日の休日は雨の予報ですが、お気に入りの傘を持って出掛けてみるつもりです。どんな生き物たちに出会えるのでしょうか。