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研究館より

表現スタッフ日記

2024.05.01

生命とは何か2

「生命とはなにか」という問いは生きものを考える上でまさに本質であり、さまざまな立場から議論され、幾つもの書物が出版されています。今年季刊誌で取り上げている「共生」に目を向けると細胞内共生説の提唱者として知られるリン・マーギュリスとその息子のドリオン・セーガンに「生命とはなにか」の著作があります。「細胞内共生説」は、真核生物の起源を原核生物の共生に求め、ミトコンドリアと葉緑体がそれぞれゲノムの痕跡であるDNAをもつことから、細胞内に入り込んだバクテリアであることが証明されました。「生命とはなにか」では、生命誕生からバクテリアの時代、真核細胞の発生、動物、菌類、植物と進化を追って「生物とは何か」の問いに対する考えを展開していますが、最も明快に答えているのは「生命とはバクテリアである」です。バクテリアの共生が私たち真核生物を生み出したので、すべての生きものは遡ればバクテリアであるということで、マーギュリスがまず言いたかったことなのでしょう。

マーギュリスは、進化の源をダーウィンの「競争」に対して「共生」に求めました。現在の生きものは、おそらく他の生きものが全くいない環境では暮らせません。私たち動物は、生きものを食べずに生きられませんし、栄養を得るためにバクテリアの助けも借りています。光合成で自らエネルギーをつくる植物も体を維持する栄養素を得るのにバクテリアや菌類を必要とします。生きていることすなわち「共生」であると言えます。そうすると共生関係に変化が起きれば、適応しなければ生き残れません。やはりダーウィンの選択に委ねることになりますので、両者は対立する考えではありません。真核生物の誕生は、「共生」のたまものではありますが、おそらくたくさんのチャレンジの中で、選び抜かれたのが今の真核生物なのです。

地球全体が一つの生態系であり、地球の環境は恒常性を維持していると考える「ガイア仮説」は、ジェームズ・ラブロックの説として知られていますが、マーギュリスはラブロックと共同でガイアの考えを進めました。生きものによる環境の調節は、植物が出す「有害な」酸素を動物が呼吸に使うことに始まったように、ある生きものが代謝によって吐き出すものを、別な生きものが使う循環によるとを考えます。地球が生きものであることをメタファーとした言葉のように受け取られることも多いですが、地球をシステムとして大気の組成や気温や酸性アルカリ性などの測定に基づく科学です。マーギュリスは、人間が生きているこの星に責任があるという考えを、人間の思い上がりと断じ、「私たちは私たち自身から私たちを守る必要がある」と指摘しました。

20世紀は「遺伝子の世紀」、そして21世紀は「共生関係の世紀」であると言われています。季刊「生命誌」の「共生」という切り口から「生命とはなにか」を考えるきっかけになればと考えています。

参考図書 絶版ですので図書館でご覧ください。
  「生命とはなにか バクテリアから惑星まで」リン・マーギュリス、ドリオン・セーガン(池上信夫訳)(せりか書房  1998)
  「共生生命体の30億年」リン・マーギュリス(中村桂子訳)(草思社  2000)