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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2024.03.01

人間は何故いるの

先日、生命誌について話を聞いていただいた後で、「地球上には多様な生きものがいること、人間がその一つであることはよく分かりました。でも、お話にもあったように、人間だけどこか特別でもありますよね。なぜこんなものが生まれたのでしょう」と聞かれました。なぜと言われても・・・・まずは、「科学は、いつ、なにが、どのようにして、ということは考えられるのですが、なぜは考えられないのです」と、逃げを打つところから始め、考えました。でも、どんなに考えても、なぜという問いへの答えが出てくるはずはありません。

あれこれ考えているうちに、自然は、40億年もかけて作り上げてきたこの見事なシステムを全体として理解し、面白がってくれる存在が欲しくなったのではないかと思えてきました。これだけの作品を評価しないのはもったいないと。そこで生まれたのが人間というわけです。質問して下さった方もなんだかそんな風に考えていらした様子でした。

ところが人間は、自然が望んだ、素晴しい出来上がりを面白がるという方向に進まずに、自分がつくったのでもない自然を勝手に支配し始めたのです。そんなことができるはずはないのに、できると勘違いして動き始めてしまいました。今頃、自然は後悔しているのではないでしょうか。とんでもないものを生み出してしまったと。

自然にお詫びをして、支配などというおこがましい態度を改め、謙虚に自然に向き合いますと言いましょう。それが生命誌です。まだまだ分からないことだらけですが、「生きているとはどういうことか」を問い、「どう生きるか」を考える道を歩くことを楽しみ、お仲間を増やしていきたいと思います。その先には、暮らしやすい日々があると信じて。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶