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研究館より

表現スタッフ日記

2024.02.01

生命とは何か

今年は、物理学者シュレディンガーの講義録「生命とは何か」の出版から80年目にあたるそうです。「生命とは何か」の問いに取り組んでいるといえば「生命誌」と期待されているのでしょう。「生命とは何か」に因んだ中村名誉館長の記事が複数掲載されました。「生命」を対象にした学問「生命科学」の誕生に立ち合われ、その人間や社会までを含めた科学のあり方を探究し、さらに生活し行動することを通してあらゆる分野とのつながりを世界観として「生命誌」を提案し、展開し続ける姿にあらためて感じ入りました。全体でありながら、生きものの階層を貫くゲノムを通しての「生きている」を知る科学の視座は、私たちもさらに深めていかなくてはならない課題です。

さて、「生命とは何か」簡単なように見えますが、難しい問いです。もちろんシュレディンガーや生命誌だけでなく、さまざまな考えがあります。
「変化を伴う自己複製系」という定義があるそうです。この定義では、コンピューターウイルスも該当すると考えるようですが、そもそもコンピュータが必要というところで、自己複製は論外に思います。私たちは、目の前にいる鳥やチョウが複製などしていなくても、それが進化を通して変化するか知らなくても、今ここで生きていることはわかります。
「DNAをもつ細胞からなる」ことも基本です。ですが例えば、マグロのお刺身は、残念ながらマグロはもう生きていませんが、新鮮な細胞からDNAを抽出することができますし、細胞培養して食材にする試みもあるそうです。カレーライスを作ろうとじゃがいもを手に取って、生きていると実感することはあまりないですが、置いておけば芽を出し、植えれば立派な植物になるのですから生きものそのものです。

一般化しようとすると直感から離れていくということは、機械論的な見方ということになるでしょう。他にも「生命とはなにか」にはさまざまな考えがあります。「生命という言葉を定義することではなく、生命の本質を理解することが必要である」とキャロル・クリーランドは説きました。生命論に基づく「生命」そして「生きている」を考え、生命誌の基本であるゲノムを切り口とした科学を社会にどう生かすか、今年も考えていきたいと思います。
 

参考文献

現代化学 2024年1月号 特集 生命とは何か2024 
 「生命論的世界観を求める:分子生物学,生命科学,生命誌という流れ」 中村桂子

現代思想 2024年1月号 特集=ビッグ・クエスチョン
  「生命とは何か?――矛盾から生ずるダイナミズム 」 中村桂子

「生きている」とはどういうことか」 カール・ジンマー著 斉藤隆央訳 白揚社