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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2023.06.01

30周年はとても面白い年です

BRH の創立20周年を迎えた年に、私は何をやりたかったのか、何ができたのかということが見えたという感覚を持ったのを覚えています。人間が大人になるのに20年(当時は20歳で成人でした)かかるとされるけれど、新しいことを創り出そうとすると、同じくらい時間がかかるのだと、その時思いました。

そして今年、30周年の感想は、「広がりができた」ということです。Jリーグが同じ30周年でこれまでを振り返って社会への浸透の様子を示しています。サッカーと同じには行きませんが、「浸透」という感覚はあります。それもこの1,2年で急速に。

地域づくりの活動をしている方、自然や環境に関心を持っている方、保育を含めて子供たちの教育に関わっている方、土木や農業など本来自然との関わりが深いはずなのに自然離れしている分野の方、編集者や本屋さんなどなど本に関わる方、お母さん、おばあさん、お父さん、おじいさんなど子どものことが気にかかる方、・・・・様々な方たちが今何かを考えなければならないと思った時、「生命誌絵巻」を思い浮かべると何かプラスの方向が見えてくるとおっしゃるのです。私は変わったつもりはないのですが、受け止める方たちの様子が変わってきました。

明らかに社会がおかしくなってきています。ロシアとウクライナの戦争を止められないのはその最たるものです。G7とやらで集まったら、とにかく近代武器を使っての戦争は止めるようにと言って欲しいのです。「言うこと聞くか」と言われましたが、そんなことは分からなくても言うべきだと思います。子どもを叱る時、言うこと聞かないと思うから叱らないという親はいないでしょう。この時、「人間は生きものであり自然の一部。ホモサピエンスは一種で祖先を同じくしているという事実を考えたら、そのような存在である私たちが生み出した科学技術は戦争に使うものではないことは自明です」と、生命誌の基本を伝えて欲しいのです。

納得のいく方向を探すと、決して難しいことではなく絵巻の中の人間として生きると考えればよいということが見えてくる。そう思われる方が増えており、そのような方たちと共有する時間がとても多くなっているので、この提言絵空事ではないと思っています。

「身の回りの小さな生きものたちの語る物語に耳を傾けながら、私たち人間も生きものなのだという当たり前のことを考え、そこから生き方を探る。」30年でこの基本の基本が確立したと実感しています。生命誌研究館の図の中央部分を確実に進めることで、左側と右側が少しづつ動き始めていますので、この部分を確実にしていくための日々を送ろうと思っています。なんだか忙しくなっていますが、生命誌を本物にするには大事なことですし、分かって下さる方との時間はとても楽しいので、今年は「広がり」を楽しむ年です。ご一緒にできることがありそうでしたらお声がけください。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶