1. トップ
  2. 語り合う
  3. 研究館より
  4. 生命誌を思う時やはり気になるのは戦争です

研究館より

中村桂子のちょっと一言

2023.05.16

生命誌を思う時やはり気になるのは戦争です

30周年の会が近づいてきましたので、30年を振り返り、今を思う日々をおくっています。「生命誌研究館」の活動は、皆様のお力で着実に進んできたという充実感を抱く一方で、社会では「生きること」が大事にされなくなってきているのが気になります。

異常気象やコロナ・パンデミックも原因の一つに人間の活動があることは確かですが、そこではよかれと思ったことに思いがけない問題があったという面があります。けれども、最近の戦争志向は「生きること」という基本から見て、弁明の余地のない愚行です。

戦争のない社会を思い描くなど、世間知らずと言われそうですが、1989年のベルリンの壁崩壊の前後の世界の動きは、その可能性を予感させるものでした。当時のソ連首相ゴルバチョフが、全体主義、冷戦を終わらせ、核兵器削減を実践した時、西側諸国がそれを評価し応援していたら、世界のありようは違っていたでしょう。細かいことは書きませんが、私たち市民も世界が一つになって動く社会の可能性を思い描いていましたし、あの時はそれができたと思います。当時のゴルバチョフさんの映像を見ると、本当に良い顔をしているのが印象的です。皆がこのような顔で世界のことを考えたら・・・第二次大戦というとんでもない体験をした人類が、なぜまた戦争の方向へ向かって動くのでしょう。

人間とはなんと愚かな存在であることかという決まり文句でやり過ごしてはいけません。ここでは、ホモサピエンスという名称を思い起こすことです。ここで「生命誌」が活躍しなければ存在価値なしです。長い時間をかけて生まれた生きものたちの世界にいる「賢い存在」として行動しましょうと、皆に呼びかける役割があります。

そんな思いで、今日も「ピーターと狼 生命誌版」の楽譜を眺めました。久しぶりなのできちんとできるかな、プリムローズの石岡さんと安宅さんがいて下されば大丈夫など、あれこれ考えながら。時間の坊や元気です。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶