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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2023.01.06

30周年で一皮むける生命誌を

新しい年が明けました。
コロナウイルスの感染は収まらず、物価は上昇し、気象は安定せず、ロシアが始めた戦争を誰も止めることができず・・というより止めようともせずという落ち着かない年明けです。
だからこそよい年にしたいですね。

昨年末には、ケイ・タケイさんと一緒に、「根っこ」について考える舞台をしました。一人一人が「根っこ」を持つことが、今一番大事なのではないかという思いで始めたことです。
以前にケイさんとは「根っこと翼」という舞台を研究館でやりました。上皇后さまの、「読書によって根っこと翼を手にすることができた」というお言葉から、生命誌も「根っこと翼」を与えるものにしたいという思いを、踊りと詩の朗読で表現したのです。そして今は、「根っこ」に目を向けよう、翼で飛ぶことも大事だけれど、今は「根っこ」だという気持ちです。

お友達からのメールに、アフガニスタンの人に「生命誌絵巻」を見せたら、とても気に入って、これは今とても大事なことを表していると話し合ったとありました。アフガニスタンでは、女の子の教育ができないからという理由で出国、日本にいらした方だそうです。自然環境も歴史もまったく異なる人とも、絵巻を通して生きものへの気持ちを共有できるのは嬉しいことです。
昨年は、本当にたくさんの方から「絵巻」への共感の声を聞きました。芸術、人文社会系学問、教育、環境、マスコミなどでの広がりもですが、全く考えたこともない視点だという方たちとの出会いが新鮮でした。企業の中堅で活躍している人、政治を通して国づくりを目指している若い人の中に、今まで思いもしなかったけれど、生命誌を取り入れて考えると新しいものが見えてくるという方が少なからずいたのです。政治や経済の動きは決して良い方向に行っているとは思えませんが、それ故に変わらなければならないと思う方が出始めているのでしょう。中から変わる力が出てくるといいですね。

今年は、研究館の30周年です。生命科学ではない、生命誌という知の本質が活かされる年になる予感がします。
今年もよろしくお願いいたします。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶