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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2022.11.15

本来を思い起こす

出会いは不思議なものです。先回矢野さんの話を書きましたが、今回は「地球守」という活動をしていらっしゃる高田宏臣さんです。一緒に活動をしている方を通して著書「土中環境―忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技」をいただきました。そこには、矢野さんと重なる考え方と具体的活動が書かれていました。要は風(空気)の道と水の道をつくることであり、そのようにして生まれた土に支えられて植物が生き生きと育つ状態をつくることが基本ということです。お二人それぞれが、自然に向き合うことで独自に見出されたことですけれど、私のように横から見る者にとっては同じところが印象に残ります。高田さんにもお会いしたいと思っています。生命誌の表現の一つとしてつくった映画のタイトルが「水と風と生きものと」だったのは決して偶然ではありません。

人間本来に戻って自然と接すれば自ずと見えてくるものがあるということです。現代社会ではそれが見えなくなっているだけで、その気になれば誰にも見えてくるもののはずです。

「地球守通信」に気になることが書いてありました。最近木材需要が高まり、価格が高騰。その結果、日本の山林の大面積皆伐や盗伐が急速に増えているというのです。掲載されている写真のひどさに呆れました。SDGsという言葉が流行し、木材を用いることが自然に近い素晴らしい行為となってきたことと無関係ではなさそうです。大きな建物にも木材を使うのが流行りですから。もちろん日本の風土には木の建築が合っているので、決して悪いことではありませんが、無残な山を見ると、全体を見て計画的に伐り、次の森を作るところまで行う必要を感じます。

事実を自分で見て、本質を自分で考えるのが人間の本来の姿ですのに、流れに乗って生きる人が多くなっているのではないでしょうか。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶