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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2022.07.15

「科学者はこのままでいいのかな?」が私の問いです

先回、中学・高校の理科の先生と話し合いをしたことを書きました。その時、こんなことを話しました。「今は誰もが遺伝子と言えばDNAを思い浮かべますけれど、科学者の中でそれが認知されたのは1952年のことですよね。DNAの発見から80年以上もたっています。4種の塩基しかもたない物質が遺伝子であるはずがないと研究者が思い込んでいたからです。17世紀に始まった科学の歴史の中で、DNAで生きもののことを考えられるようになったのはついこの間のことなのです。ですから、現代科学技術社会は、それ以前の科学がもつ機械論で動いているわけです。恐らくこのままでは持続可能社会は無理でしょう。進化・発生・生態学という全体像をゲノムDNAを通して理解する科学が生まれたのですから、それを支える生命論に転換することで興味深い未来が見えるはずなのに、なぜかその転換は起きていません」。これに対して「なるほど。そうなんだ」と手を叩いて敏感に反応して下さった先生がいらしてとても嬉しくなりました。あたりまえのことを話しているのですから反応があって当然とは思っているのですが、それがなかなか……という場合が多いので。この先生方と少しづつ活動できたらよいなと楽しみになりました。

異常気象・ウイルスパンデミックは、表面的対応でなく社会のありようを根本から考え直すことを求めています。そこへロシアのウクライナ侵攻というとんでもないことが起き、世界は軍事力拡大というこれもとんでもない対応をしています。日常では経済格差が広がるばかりなのに変える様子は見えません。人間の質が落ちていくのが気になります。科学・科学技術も戦争と格差を支える経済の論理の中でしか動いていません。転換へ向けての発信と行動があってもよいと思いますのに。

「セロ弾きのゴーシュ」では、悩んだゴーシュが自然にもらった力で弾いた音が街の人々の心を動かし、アンコールとなりました。自然には街の人を変える力があることが示されたのです。小さな活動、不器用な発信しかできませんけれどこのような時こそ生きものとしての基本を発信していくことが大事だと思います。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶