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研究館より

表現スタッフ日記

2021.11.02

生きものの言葉

高槻から北へ山を越えると京都の亀岡に抜けます。亀岡市は、国際交流に力を入れ「多文化共生のまちづくり」を推進しているということで、その多文化共生を考える会に、生命誌研究館として招かれ、年に数回、伺うようになりました。この会で、その時々の「表現を通して生きものを考える」という仕事についてお話するのですが、お話をするたびに、生命とは、本質的に多様な生き方を生み出す存在であるということ。また、生きのものの世界は、多様なもの同士が関わりあうことで成り立つという、当たり前のことを、いつも改めて考えさせられます。

そんなご縁から、先日、亀岡市内の小学校のお招きで「ワールドフェティバル」という学校行事へ伺い、六年生の四クラスでお話ししてきました。子供たちは [SDGs]とか[絶滅危惧種]とかを授業で学習するわけですが、そのように、先生から知らされて覚える知識でなくて、そもそもご飯を食べて、学校へ通って、家族や友達と暮らしているあなたの毎日は、自然の風景の中の一コマであって、それは生命38億年の生きもののつながりのうえで成り立つ今なのだと、そこにリアリティを実感して欲しいと思っての授業です。自分の身の周りの自然――よく見る蝶々や草花に、あるいはご飯のたびに声にする「いただきます」の一言に込められた意味に、思いを馳せて欲しいというお話を、どこまで響くかな?と思いながら、思いつくかぎり手を変え、品を変えて授業に臨みました。[SDGs]にしても[絶滅危惧種]にしても、知識でなく実践は、身の周りの小さな一つ一つからしか動かせませんから。

小学六年生だと、細胞もDNAもまだ教科書には出てきませんが、その言葉やイメージは、みんな既に持っていますから、そこをきちんとお話すれば、当然、理解してくれます。「生きている基本は細胞です。地球上の生きものは皆、細胞を基本に生きています。」「生きものは皆、細胞の中にDNAをもっています。そこに、その生きもの固有の遺伝情報がしるされています。DNAっていうのは “生きものの言葉”です。地球には、いろんな生きものがいますが、驚くべきことに、皆、おなじ言葉をつかっています。DNAという言葉の文字は、A,T,G,Cのたったの4種類。単細胞のバクテリアも、タンポポも、虫も、ヒトも、この4つの文字は共通で、何が違うかというと文字の並び順で、その違いが情報になっている。これ、驚きですよね。」みんな驚いてくれたみたいですし、いろいろ考えてくれたみたいでした。どこまで伝わるかなと思って臨んだワールドフェスティバルの「生きものの言葉」の授業でしたが、その後、10日ほどして、六年生110人から感想とお礼のお手紙が送られてきました。そこまで伝わったか! 一人一人が考えたこと、感じたことがひしひしと伝わってきて…読んでいて涙が出ました。これは私の宝物です。質問もたくさんあって、お返事を書いていたら、まだ授業でお話しているような気になってきました。

「生きものの言葉」の先生として参加したワールドフェスティバルには、アジアの家庭料理の先生、中国の神話舞踊の先生など、他にもいろんな国のいろんな文化を子どもたちに伝える方々がいらしていて、生活文化の一つとしての生命誌を改めて思いました。