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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2020.09.04

生きもの(自然)はへんてこで扱いにくい・・・①

むかしむかし、おじいさんとおばあさん・・ではなく、私が小学生の時、夏休みの絵日記に書き込んだその日の気温が30度を越えるのは、1日あるかないかだったように思います。それが毎日30度以上なのですから驚きます。これも大変なことですが、私にとってこの夏特記すべきことは、セミの声です。なぜかカナカナに始まり、ミンミンゼミ、アブラゼミ、締めがツクツクボウシでした。とくにミンミンが元気で庭のヤマザクラでは、密などなんのそのとばかりの合唱です。朝起きるとすでに鳴き始めているセミたちの声の中で暮らしながら、あのシャアシャアうるさいクマゼミの声がやけになつかしいのです。月に一度くらいは研究館に行くつもりにしていたのですが、コロナ騒ぎで動けず、ついに頭の上から降り注ぐクマゼミさまのシャアシャアに出会う機会を持てませんでした。今となっては懐かしい声ですので、来年は是非聞きたいものです。セミと言ったときに思い浮かべる音がまったく違うとは関西で暮らすまで思いもしないことでした。岡田節人先生が関西が舞台のテレビ劇でミンミンゼミが鳴いていると怒っていらした気持ち、今なら分かります。セミだけでなく、同じ言葉でお互い全く違うことを考えていることってあるのでしょうね。あるのでしょうでなく、その方が多いのかも知れません。

ところで、この夏の私の最大関心事は、暑さでもセミでもありませんでした。米国の大統領や我が国の政治家への不満でもありません。雨です。夏の間、雨らしい雨が降りませんでした。小さな雨雲が動き、局地に雨を降らすのですが、なぜか世田谷区成城には雨雲がきませんでした(昨日初めて地面が濡れましたが、30分ほどで上がりです)。

庭はカラカラ、水撒きをせっせとやっても人間のできることなどたかが知れています。朝のニュースで一番熱心に聞いたのは天気予報でした。所により雨と言う予報士さんに、ここは所じゃないんですかと文句を言いたくなってきます。予報士さんにはなんの責任もないのに。これもよくあることですね。

何が思い通りにならないと言って、身近な自然ほどどうにもならないものはないと実感しました。もちろん、その中には生きものがおり、生きものの中には人間がいるわけです。

今、生きものってどういうものですかと聞かれたら、即、生きものは自然ですよね、自然はへんてこで扱いにくいものであり、生きものもそうだと思いますと答えます。へんてこで扱いにくいものの中に、コロナウイルスが入っているのは勿論です。ウイルスは生きものではないと言いながら生きものに近く、事をますます複雑にする存在であり、困りますね。続きは次回に。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶