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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2020.07.15

宝船とコロナ…本番はこれから

「宝船」の舞台は無事終了しました。舞台は本番が大事なのかもしれませんが、私の場合、創っていく過程が好きなのです。俳優、ダンサー、演出家、舞台やサーカスのプロデューサーと、数回とはいえ練習を積み、「生きている」と「生きる」をどう考え、どう表現するかを話し合えたのは、有難く、楽しい時でした。観客も楽しんで下さったようで、拡がりができたかなと思っています。

ただ、創る過程で考えさせられることがありました。2020年国際舞台芸術祭のテーマが「生命誌」と決まったのは昨年ですので、新型コロナウイルスのことなど誰も考えていなかったわけです。

ウイルスによるパンデミックという事態は、20世紀初めにインフルエンザで4000万人が亡くなったことなど、歴史上の事実としては知っています。そして、それがまたいつか起きるだろうことも分かってはいました。けれども、実際にそれに出会ってみると、いつどんな風に何が起きたのかがよくわからないままに、パンデミック宣言が出され、ウイルスに翻弄されているというのが実感です。

そんな中、人との接触の抑制を求められ、思うように活動できない舞台関係者が苛立つのはよくわかります。ただ、そのために、実はインフルエンザの方が死者が多いではないかとか、マスクをするのは自粛という掛け声に唯々諾々と従うもので、本来体制に異を唱えることを大切にする芸術家のすることではないという主張が出てしまうのには疑問をもたないわけにはいきません。現状では、まずパンデミックという事実に向き合い、それへの対応・・たとえば人中ではマスクをする・・はきちんとしなければならないと思うのですが、その考え方が気に入らないと言う人がいて、これには参りました。とくに今の政治がさまざまなところで格差を生みながら統制の恐ろしさをチラチラ見せていますから苛立ちは共有できるものです。

それでもなお、事実と向き合い、今大事なことは何かを考えたうえで、行動することではないでしょうか。今こそ「生命誌」から意味のある示唆を引き出し、新しい暮らし方を生み出したいものです。ですから、これからが本番です。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶