今号テーマ
わたしたちの中の「わたし」
私はただ一人で生きることはできません。生きものとして、人間として、社会の一員として生きています。同じ生きもの同士集まる様子は全ての生きものでみられます。個と他の関わりが「生きている」の本質なのです。パースペクティブでは、新進気鋭の社会性神経科学者の奥山輝大先生が、他の誰かをその人として記憶し、相手の状況を理解して自らと重ねあわせるニューロンのはたらきから社会の起源に迫ります。スペシャルストーリーは肉食動物。アドベンチャーワールドの松井睦さんが、ネコ科動物の野生の姿と動物園の環境から頂点捕食者の現状を語ります。紙工作は新シリーズ、人間の些細な都合で絶えてしまった動物を見つめる「絶えるのはたやすい消えた動物」です。ステラーカイギュウは群れで暮らし、人の手から仲間を守ろうと抵抗し傷つき数を減らしました。わたしたちがあるから私がある。「わたしたち」という視点で、生きかたを考えるときです。
PERSPECTIVE わたしたちの中の
「わたし」 <生きものに見る社会性>
集団をつくる生きものは、バクテリアから霊長類までさまざまな生物グループに見られます。同種の個体で協力すれば、効率よくエサをとったり身を守ることができるのです。それぞれの生物の社会の中で、群れを導くリーダーや巣を守る兵隊などの役割が進化しました。多細胞生物の体も、役割の異なる多様な細胞からなる社会といえます。
同質の個の集団から、関わりを通してさまざまな生き方が生むのが社会です。生物社会の中の「わたし」はどんな特徴をもっているのでしょう。
個体を認識する生きもの
脊椎動物などの複雑な社会の基本は、個体の一つひとつを互いに認識し、記憶しておくことにあります。記憶を担うのは、情報処理に特化した脳の神経細胞(ニューロン )です。細胞レベルの研究から、動物が記憶を元に誰かを好きになったり、互いに共感を示すしくみが見えつつあります。他者の情報はどうやって脳に記憶されるのでしょう?
ニューロサイエンス 奥山輝大 東京大学
過去の記事からさまざまな生きものの社会性をみてみましょう。
-
雌雄の関係が群れを動かす
ニホンザルのメスは同じオスとは何度も交尾しません。メス達に拒否されたオスは、たとえボスであっても群れを去ります。一方ゴリラはメスが群れを渡り歩きますが、メスのいない群れではオス同士で性行動をすることがあります。雌雄の関係が群れを動かす、霊長類社会を見てみましょう。
ニホンザルのメスは同じオスとは何度も交尾しません。メス達に拒否されたオスは、たとえボスであっても群れを去ります。様々な霊長類社会を見てみましょう。
-
役割を分担する
ミツバチやシロアリなど、集団の一部の個体が繁殖能力をもたない動物を、真社会性動物と呼びます。この動物は女王個体が繁殖し、他の個体が護衛や餌採りを行いますが、同じ種でも形や生理機能、行動までが役割に沿って劇的に変化します。同じ女王から多様な職業が生まれるしくみは?
巣の中で護衛や餌取りの役割を分担するシロアリは、形や習性が役割に応じて劇的に変化します。同じ女王から多様な職業が生まれるしくみは?
-
細胞同士で話し合う
単細胞生物のアメーバは、繁殖の時だけ集合して多細胞体となります。集まった細胞は、その場で生殖細胞(胞子)と体細胞(胞子を支える軸)に分かれます。多細胞生物の始まりを思わせる見事な連携の方法とは?
単細胞生物のアメーバは繁殖の時だけ集合し、その場で胞子とそれを支える軸の細胞に分かれます。多細胞生物の始まりを思わせる連携の方法とは?
-
仲間の存在を感じ取る
細菌は密集すると、単独でいる時には出さないヌルヌルの分泌物や毒素を出し始めます。しかし彼らは周りの細胞一つひとつを認識しているわけではありません。どうやって細胞の密度を感じ取るのでしょう?
細菌は、密集するとヌルヌルの分泌物や毒素を生産し始めます。彼らはどうやって周りの細胞の密度を感知するのでしょう?
SPECIAL STORY
ステラーカイギュウ
人間の活動は、多くの生きものの暮らしに影響を与え、中には種を絶やすほどの行いもありました。18世紀に発見されたステラーカイギュウは、現存のジュゴンやマナティと同じ海牛目の哺乳類ですが、人間の影響によって発見からわずか27年で消えてしまいました。人間の些細な都合で絶滅してしまった生きものから、私たち人間も生きものとして自然のなかに生きるとはどういうことか考えます。
PAPER CRAFT
EXHIBITION 新しい展示が登場しました
EXHIBITION 新しい展示が
登場しました
17〜18世紀に、昆虫を描いた作品を残したマリア・ズィビラ・メーリアン。
生きものの見たままの姿と生き様を知ろうとした「蟲愛づる」心が生命誌と重なります。
メーリアンが研究館へ誘う新展示をご覧ください。
生命誌オペラ 「蟲愛づる」
メーリアンが案内役となり、JT生命誌研究館の活動を、
映像や人形たちが紹介します。
マリア・ズィビラ・メーリアン
スリナム産昆虫変態図譜展
メーリアンの代表作である「スリナム産昆虫変態図譜」に
収録された図版の中から17点を厳選して紹介します。