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Music

蘇る原始の記憶

金子竜太郎

一見、単純なように見える太鼓という楽器。その音には無限の可能性が秘められています。
原始の記憶を呼び覚ます太鼓の音とは…。


「太鼓ってどんな音?」と聞かれれば大抵の人は答えられると思います。にもかかわらず、直接音に触れる機会は、村というコミュニティーの衰退とともに少なくなっています。その反面、5000~6000といわれるほど、新興の太鼓グループが増えています。これは、かって村人同士、そして人と神を繋げる役割を担ってきた太鼓によって、希薄になりがちな現代の人間関係を豊かにしたいということかもしれません。

では、なぜ太鼓はそのような役割を果たし、人の心を引きつけることができるのでしょうか。世界で太鼓を持たない民族は、ほとんどありません。そのうちのいくつかに触れて思うことは、なにより音そのものに魅力があるということです。

太鼓の音は、昔の記憶を呼び覚ます力があるような気がします。かつて胎内で聞いた、母親の心臓の音に似ているという説もありますが、それを実証するかのように、大音量での演奏中にスヤスヤ眠る赤ちゃんがいたり、都会で育ち、太鼓に直接触れたことのない人でも、なぜか郷愁をそそられ、懐かしい気持ちになるとよく聞きます。

アフリカの村で聞いた激しく複雑なリズムと、ネイティブアメリカンの落ち着いた単純なリズムは対照的です。しかし、音はどちらも天地に力強く共鳴し、実際の太鼓以外の響きが聞こえてきました(これこそ実際の響きなのかもしれませんが)。細胞を震わせ、進化の過程をさかのぼって原始の記憶が蘇り、生命の本質、宇宙の律といわれるものに呼応するのでしょうか。まるで宇宙の歌を聞いているようで、日常の喜怒哀楽や人種、国籍などの相違を超えた感動、ヨロコビがありました。

これまで世界の太鼓打ちと数多く共演をしました。打ち合わせでは、言葉や習'慣の違いにギクシャクしても、音を出すと途端にわだかまりが消えるのです。国や民族に対するアイデンティティーの意識を、太鼓を使った音楽で強固にしてきた歴史がありますが、「どぉ~ん」という音は、すべての人間に共通である「身体」の深部に直接響いてきます。もしも、アイデンティティーを「人間」に求めるならば、共通の深部に働きかけ、相違の壁をひらりと乗り越えてしまう太鼓の音に、人は可能性を感じとり、太鼓を求めるのではないかと思うのです。

ヨロコビに出会う感動が私の太鼓をたたく動機であり、生命誌研究館が科学し表現する動機と同じ気がして、いつかきっと接点ができるだろうと勝手に考えています。

金子竜太郎(かねこ・りゅうたろう)

1964年東京生まれ。和太鼓奏者。87年、太鼓による音の創造集団「鼓童」のメンバーとなって以来、その中心プレイヤーの一人として世界各地で演奏を行なう。96年からソロの演奏活動も行なっている。

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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