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生きもの上陸大作戦

サイエンス・コミュニケーター&プロダクションセクター

「遺伝子から環境まで全体の関係を展示に表現したいのです。」と蘇研究員に展示への思いを語る板橋スタッフ(SICPセクター)。
 38億年前に誕生した生命体が進化を重ね、多種多様の生物が暮らす生態系をつくる過程では、エポックメーキングな事柄が何度もありました。真核細胞誕生、多細胞生物の誕生などがその例です。その中で、今回注目するのが「上陸」。生命体は海で生まれ、歴史のほとんどを水中で過ごしましたが、5〜3億年前に、暮らしやすい海を離れ、過酷な環境である陸地へと進出したのです。
 ゲノムに刻まれた歴史を読みとくと、陸上進出後に大活躍する遺伝子がかなり早くから準備されていることに気づきます。となると、鍵は環境にあるようです。光合成によって生じた酸素がオゾン層をつくり、地表に届く紫外線量が減り始めたことで、陸上が棲息可能になりました。海の生態系を形成していた植物、昆虫、脊椎動物の祖先たちが続々と上陸し、新しい形や能力を手にし、急速に多様化しました。ゲノム、形態、環境の変化を重ね合わせた上陸大作戦を、2階ギャラリーに描き出します(2009年秋公開予定)。

昆虫の起源と進化を明らかにする

DNAから共進化を探るラボ
 陸上生態系で多様性を誇る昆虫。名のついたものが約100万種と全生物種の6割を占め、そのほとんどが有翅昆虫である。5〜4億年前、陸上進出した昆虫の祖先は何か。分子系統樹上、昆虫類に近縁なのは甲殻類であり、中でも淡水に暮らすミジンコなどの鰓脚類が最も近いと考えられる。海から河川などの淡水に移動した鰓脚類が、エラ呼吸から空気呼吸へ変わるための気門を獲得し、地面を歩くための脚を手に入れたのだろう。最初の昆虫は、現在のカマアシムシ、トビムシに近い無翅昆虫であった。
 間もなく昆虫は翅を手に入れる。昆虫類の系統関係から有翅昆虫の起源を調べた結果、無翅昆虫の中でもシミ目が有翅昆虫に近縁であることがわかった。この結果は、シミ目が有翅昆虫と形態的にも近縁であることと一致する。シミ目から有翅昆虫への分岐の枝は短く、翅の獲得後、短期間で多様化したと思われる。より詳細で信頼ある答を得るには更なる解析が必要だが、化石情報はこれを支持している。
 有翅昆虫は、飛翔能力と小さい体を活かして、地球上のあらゆるニッチを占め多様化したのである。昆虫上陸の基本戦略が見えてきた。

DNAから共進化を探るラボ
昆虫と植物の共生・共進化を研究する中で、昆虫の起源と上陸、さらには、それと関わりの深い植物の上陸についても関心を広げている。外部の研究者と「昆虫の上陸」について意見交換し、日々系統樹とにらめっこしながら次の研究展開を考える。
※BRHカード60号より掲載