診察室にて

食物が豊富になり、健康人の標準体重が以前より10%増加した。成人病患者は医師から減量を命ぜられ、しおらしく「はい、すみません。頑張ります」と頭を下げる。しかし、そう簡単にダイエットなどできるものではない。なぜなら、人類の歴史のほとんどは飢餓との戦いの連続であり、飽食の時代など最近の一瞬の出来事だからだ。ためしに、カール・セーガンにならい、人類が地球上に現れたときを1月1日、現在を翌年の1月1日午前0時として、人類の歴史を1年間のカレンダーに圧縮してみた。

1.1 最初の人類( ? 猿人)
2.13 ラミダス猿人
7.2 <ビーバー氷期>
8.29 ホモ・エレクトス(原人)
ジャワ原人、ペキン原人、火の使用
<ドナウ氷期>
11.7 <ギュンツ氷期>
11.26 <ミンデル氷期>
12.17 古代型ホモ・サピエンス(旧人)
12.18 <リス氷期>
12.24 ネアンデルタール人(旧人)
ホモ・サピエンス・サピエンス(新人)
12.26 <ウルム氷期、最後の氷河期開始>
12.29 <クロマニヨン人(新人)>
12.31 5:00 <氷河時代終了>
14:18'30 メソポタミア文明
アダムとイブ
23:54'45 第二次世界大戦終了
23:56'51 飽食の時代始まる
1.1 0:00'00 現在
            

ご覧のとおり、人類が登場してから500万年、つい今しがたまで飢えとの戦いの繰り返しであった。その間人類は、食物があるうちに脂肪として蓄える術を身につけ、生き延びてきた。その最高傑作が現代人である。戦後の飽食の時代が始まったのは大晦日の23時56分51秒。このような歴史をもった人類(現代人)が簡単にダイエットに成功するはずなどないではないか。

(すずき・ゆたか/社会保険埼玉中央病院副院長)