写真=外賀嘉起

顕微鏡を発明したレーウェンフックが微生物の多様な世界を発見できたのは、オランダ語すらろくに読めないくらい無学だったからだという。一方、“あまりにも学のある” 現代の分子生物学者の目にはバクテリアはDNAを使って自分を増やしつづける増殖機械としか見えなくなっている。本当にバクテリアはただただ増えつづけてだけいるのだろうか。そう考えていたところヘバクテリアも休みをとるらしいという研究が現れ、来春(1994年)国際会議も開かれるという心強いニュースが飛び込んできた。

バクテリアの培養を続けていると、あるところまできて増殖が止まる。これを休止期という。休止期に入ったバクテリアは死んでしまう。これまではそう考えられてきた。もっとも、バクテリアも生き物だ。なんとかして生きようと工夫するのだ。ある種のバクテリアは休止期に入ると新しい遺伝子群がはたらいて胞子を形成する。死への道ではないということがわかってきたのだ。胞子は環境が変化しても死なず、またよい環境に入れば新しい生命を産み出す。生き残りのための懸命な戦略である。そうなると、胞子を作れるバクテリアはたいへん結構。ちゃんと生き残れるが、作れない細胞は、どんどん増えた結果、死んでしまう哀れな奴ということになる。

ところが最近の研究で、胞子を作らないバクテリアの休止期は眠っているのであり、そのためには特定の遺伝子群が必要だということまでわかってきた。この遺伝子が変異すると、バクテリアはお休みがとれず増殖を続けて死んでしまうこともわかった。このように休止期は休眠であり、生存のための戦略なのだ。考えてみると自然界にいるバクテリアは、栄養分も充分でなくほとんど増殖していないのだから、休眠戦略がなければ、胞子の作れないバクテリアはとっくに絶滅していたにちがいない。バクテリアが何十億年もの間続いてきたのは、眠ることができたからだとわかった。

眠ることの重要性。やはり生命の研究はよいことを教えてくれる。

(よしかわ・ひろし/奈良先端科学技術大学院大学教授)