西アフリカ・リベリア共和国にて。1987年

アフリカのジャングルで野生のチンパンジーを観察していたころ、えもいわれぬ感覚に圧倒されたことが何度かある。生命の歴史の重圧、といったら言い過ぎだろうか。だって、ぼくの目の前にいる、黒い毛むくじゃらの生き物は、自分と98~99%の遺伝子を共有しているのだ。つまり、40億年弱に及ぶ生命の歴史のうちのほとんどを、ぼくと共有している者たちなのだ。そのチンパンジーが、高い木の上にすわって桑の実やイチジクの葉っぱをむしゃむしゃと食べている! これを邂逅と言わずして何と言う・・・。

そんなことなら、いつも接している家族や友人はほとんど100%共有しているのだから、毎日毎日、重圧感にひれ伏しながら生きていてもよさそうなものだが、そこがそれ、凡人の哀しさというやつである。ぼくがこんな感覚を得るためには、のこのことアフリカくんだりまで出かけて行って、チンパンジーのご尊顔を拝する必要があったのだ。ぼくたちの祖先が暮らしていたジャングルという環境の中で、チンパンジーのあまりに人間的なしぐさや表情をとくと見る必要があったのだ。

おそらくほんの数百年前までは、アフリカのジャングルまで行かなくても、誰でもが生命の歴史にひれ伏すことは可能だったのだと思う。近代科学の偉大な成果は、また代償も大きかったということか。しかし事態は変わりつつある。きっと後世の人々は、20世紀最後の10年間を、人類がこの代償を埋め合わせる努力を始めた時代として位置づけるだろう。生命誌研究館は、ぼくたちのジャングルになってくれると思う。

(さくら・おさむ/横浜国立大学経営学部助教授)