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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2024.05.01

ド・ミ・ソと皆で歌ったら

自然の大きな流れの中にいるという生きものとしての感覚を忘れ、科学技術とお金で自然離れした未来をつくろうとしている社会が心配になって、「炭素循環」という固い話をしているうちに、季節は足早に進んでいきました。まず我が家の庭でサクランボの木、次いで街路樹のソメイヨシノ、最後に庭のヤマザクラと、サクラも大急ぎで咲き、散っていった今年でした。

そんな中、先日成城学園で開かれた小澤征爾さんの会に行きました。お父様が学園の合唱団の指揮者として活躍なさったお友だちと咲き誇るモッコウバラなどを楽しみながら、小澤さんのお家の前を通って十数分歩くと、緑豊かなキャンパスです。以前小学生が「ほら、ナナフシだよ」と見せてくれたこともありました。

ご子息の小澤征悦さんが、親父が一番楽しむであろう時間を過ごしましょうと、「小学生の頃、アンパンと牛乳びんを持ったジーンズ姿の親父がふらっと教室にやってきて、こんなことをしたのです」と言って同じことを始めました。全体を三つに分けて、左がド、真ん中がミ、右がソの音を出します。ドー、ミー、ソー。そして皆で一緒にド、ミ、ソー。会場をすてきな音楽が流れました。「これが音楽なんだよ。楽しいだろ」 征爾さんはニコニコしながら子どもたちに語りかけたのだそうです。白い花に囲まれた写真が今にも話し出しそうでした。

素晴らしい!! 征爾さんも属していらした合唱団のOB、OGたちによる合唱。サイトウ記念(今はオザワ記念)オーケストラの有志による『G線上のアリア』。司会以外は、言葉のまったくない音楽だけの会です。お兄様である昔話研究の俊夫先生(季刊生命誌に登場して下さっています)、30周年の時に『ピーターと狼』をとても楽しんでくださった弟さんの幹雄さんともお話でき、本当によい時間でした。

こういうところからは戦争は生まれない。自然の中で自然に暮らせばよいのに。今の社会のありようはどこか違う。戦争のない社会への道を考えながらの帰り道でした。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶