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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【歩いて実感する時間】

村田英克
 憶えはありませんが、某雑誌のジェネレーション定義によれば、私は「新人類世代」というカテゴリーに分類されるらしいのです。何れにせよ、自分が生まれてこの方、過ごした時代に不意に遭遇すると、無性に懐かしさを覚えるものですね。最近、目にする近過去、昭和の町並みなどをモチーフにした展示やグッズなども、ついうっかり和んでしまいます。高槻駅からBRHヘつながる芥川の商店街は、BRH開館当時から様変りしましたが、そんな昭和の香りも残っています。5年、10年という時間単位で変りゆく風景の中で、自分の世代の歴史感覚が実感できる毎日歩いてほっとする構えが残る商店街です。
 アーケードをくぐり抜けて、生命誌研究館に入ると、時間の流れががらりと変ります。ゲノムDNAに誌(しる)された、38億年という時間を、現代生物学によって読み解き、そこから見えてくる生きものが持つ歴史や関わりを表現した展示ホールの空間で、現代文明を生きる私たちも、他の生きものたちも皆、38億年という時間のつながりの中を歩いていることを実感しましょう。
 館から北西の方角に歩くと淀川の支流芥川に出ます。あおさぎが立ちずさみ迎えてくれます。川岸の道を少し上ると、芥川の名前の由来と云われる阿久刀神社が左手に見えてきます。土手を降り立ち寄ると、感じられるゆったりした時間が流れるこの神社は、平安時代から今に続いているそうです。さらに明治以降、ここに移転して集まった小さな神社が寄り添う佇まいは、それぞれの歴史を静かに物語るよう。古くから木霊が宿るとの云い伝えのあるムクノキの御神木が霊験あらたかということで、「にぎ魂 さち魂 くし魂」と祈念して三唱。百年・千年の単位の歴史の流れにいることを実感します。
 高速道路の架橋をくぐり町並みをぬけると川沿いの斜面に建つあくあぴあ芥川(芥川緑地資料館)。ここで飼育されているこの川に棲む生きものたちを間近に、今、私たちの身近にある自然の中で暮らす生きものたちとの関わりを実感しましょう。さらに芥川を遡行します。
 目の前に開けてくるのは、水を一面に張った田の面。さかさに映る季節より早い入道雲を割って田植えが進む長閑な里山風景です。そろそろ温泉もある摂津峡。今の時期、紫色に咲くシソ科のウツボグサが迎えてくれました。かじか橋を越えて、渓谷沿いのコースを辿ります。ここまでくると険しい岩場を流れる清流の響きや、野鳥や河鹿の声に包まれて、今、ここにいるだけでほんとうにもういいじゃないかと、ただ生きていることを実感します。どんどん歩き続けたいところですが暗くなる前にちゃんと山から出ましょうね。日帰り入浴できる施設もあるので温泉に入るのもよいでしょう。
水田
水田
ウツボグサ もういいじゃないか
ウツボグサ もういいじゃないか


 [ 村田英克 ]

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