展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【生命誌の容器(うつわ)】
2018年5月1日
生命誌の今年のテーマは「容」です。テーマから生きものの本質を掘り下げて考えるのが私たちの方法です。生きものを容れるのか、生きものが容れるのか、そんな連想からさまざまな生命現象を捉え、表現を模索しています。中でもBRHカードの紙工作は、ご家庭で職場で身近に生命誌を体験できる大切な表現ですから、テーマとぴたりと合わせられれば、頑張る気持ちも膨らみます。
そして決めたシリーズが「生命誌の容器(うつわ)」です。とはいえ、テーマが「容」で、「容器(うつわ)」は少々安易な感じもしますので、形はもちろん「容器」で箱型、さらにそのものが器である題材を探そうとなります。まずひねり出したのが、第一回「生命のゆりかご ロストシティ」です。深海にそびえる白い廃墟のようなたたずまいの熱水噴出孔から、生命が生まれたという研究に想を得て、生命誕生の入れ物をイメージしました。
生きものが深海の熱水噴出孔、それもモクモクと黒煙を出す激しいものではなく、おだやかなアルカリ性の熱水孔で誕生したという考えは、1990年代始めに地球科学者のマイケル・ラッセルが提案し、進化生物学者のビル・マーティンと理論を組み立てました。そして、実際にそのような場所が深海で見つかったのは、その後の2000年でまさにラッセルが予想した通りの場所でした。その環境で無機物から有機物が作られることを科学書作家としても一流のニック・レーンがみごとに実験で示しました。レーンの手による『生命・エネルギー・進化』(みすず書房)に詳しく書かれています。
この考えを表現したのは、理論、発見、実験、証明というまさに科学の醍醐味が詰まっているからですが、生命誕生については、これ以外にもさまざまな考えがあります。日経サイエンスでは「生命の起源 それは海ではなかった」(2018年3月号)という特集が組まれ、日本人研究者が生命の起源を想像させるバクテリアを発見した記事も掲載されました。ちょうどロストシティの紙工作が完成して、印刷所に向かった頃でしたので、少々ショックでしたが(笑)、紙工作をきっかけに生命誕生の物語に触れ、そこからいつか新しいアイディアが生まれるかもしれないと期待しています。